日本発「垂直統合型自前主義」は通用するか? ニトリ海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(1/2 ページ)

「お、ねだん以上。」で知られるニトリは、高品質な商品を低価格で提供するために原材料調達、および製造拠点を海外に求めてきた。一方、販売面では国内全国網を築き上げることに注力し、本格的な海外進出はこれからである。今期は、これまで学びの場として活用してきた米国に進出し、その先は中国への進出を計画している。ニトリは、日本で築いた力と地位をてこに、マーケットとしての海外展開に成功することができるであろうか?

» 2013年07月24日 08時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]

 失われた20年と呼ばれる時代にありながら26期連続増収増益を達成したニトリ。ニトリには、最初の30年は日本を豊かに、後半の30年は世界にチャレンジするという、社長自らが立てた「60年計画」がある。前半の30年では、売上高1000億円、店舗数100店を目標とし、それは1年遅れで2003年に達成された。ニトリはその後も拡大を続け、後半の30年計画最初の10年を経た2013年には、売上高3487億円、店舗数300店(国内286店、台湾14店)を達成。

 今後も2022年に売上高1兆円、店舗数1000店を、2032年には売上高3兆円、店舗数3000店を目指す。つまり10年で3倍ずつ業績を拡大させていくという非常に野心的な長期経営計画を策定している。この実現に向けては、当然のことながら海外展開の成否が鍵となる。ニトリは、これまでに作り上げてきた強みを生かして、国内で達成した成長路線を海外でも実現できるであろうか? 筆者なりの考察を加えてみたい。

 まずは、ニトリがこれまでに作り上げてきたビジネスモデルとその強みに関して整理しておく。ニトリは、似鳥昭雄社長が1967年に創業した家具店からスタートする。父親から、「人の3倍働くか、人と違うことをするように」という教えを受け、人の3倍は働けないと思った似鳥社長が近隣に家具屋がなかったので創業したのが始まりだ。比較的大型の2店目を出店して順調にビジネスが伸び始めた頃、大型競合店が近隣に出店し顧客を奪われ、苦境に立たされる。その際、知人に誘われて参加した米国市場視察ツアーで、日本より3倍も豊かな米国で家具が3分の1の価格で売られていることに衝撃を受け、日本での新たなビジネスモデルを構築、これまでにない家具のチェーン店展開の発想を得たそうだ。

 その後、まずは日本の家具メーカーから現金で安く仕入れる取り組みを試みるが、問屋からの圧力で取引が難しくなる。折しもプラザ合意で円高となり、海外から商品を調達すれば低価格での提供が可能になると似鳥社長は考えた。そこで、自ら海外を回り、台湾から家具を低価格で調達する活路を開いた。しかしながら、販売後にクレームが頻発し、商品を引き取ると同時に在庫を処分せざるを得なくなった。台湾では、木材の乾燥工程を経ずに家具を加工していたため、木材の水分含有量が多く時間が経過するとひびが入ってしまったのである。この問題を解決するために、ニトリは東南アジアでの自社生産に踏み切る。1994年にインドネシアに自社工場を設立し、タンスや食器棚などの生産を開始する。

 海外生産成功の鍵は、コストと品質である。ニトリはトヨタ生産方式を導入し、改善を重ねて生産性を高めると同時に品質を向上させて海外生産高を拡大してきた。2004年には、インドネシアに次いでベトナムに工場を設立、2008年には年間27万3351セット、44億円の生産高(※1)となり、全体の半分強を占めている。これらの工場では、工員が役割に応じて異なる色の帽子をかぶり、行動範囲や動線を見える化すると同時に、各工程のアウトプットを最適生産量にするための管理を行うなど、日本の製造業がこれまでに作り上げてきた工夫を随所に織り込んでいる。

 更に、似鳥社長自らも工場内のゴミをチェックして無駄な廃棄ロスを出さないように指導し、通常50%と言われる原材料使用率を95%にまで高め、徹底的な原価低減活動も行っている。品質に関しては、品質改善活動を報酬に連動させるといった工夫もして、現地工員のモチベーションを高めるばかりでなく、品質改善指導のプロフェッショナルとしてホンダの中国合弁会社のトップまで務めた技術者をリクルートして品質改善活動の質を高めた。このような取り組みを中国に300以上ある提携工場にまで広げ、「お、ねだん以上」を実現しているのである。

 このように、現地での原材料調達から製造を自社で行う仕組みを構築した上で、2007年5月に恵州物流センター、2009年12月に上海プロセスセンターを稼働させ、物流効率の強化も図って圧倒的な低価格を実現する仕組みを構築した。その結果、現在は中国、マレーシア、タイなど7カ国15カ所に調達拠点を設置してソーシングを行い、インドネシアとベトナム2カ国に生産拠点を有し、自社の海外ロジスティクスセンターを通じて製品を供給する自前主義の「製造物流小売業」を新たなビジネスモデルとして確立した。上流から下流までを垂直統合したこのモデルは、家具業界ではニトリ独自のビジネスモデルであり、これまでの成長を下支えしている。

 以上見てきたように、調達・製造拠点で海外進出するというニトリの取り組みは、大きな成功を収めてきたといえる。現地に自ら赴き、問題を地道に一つひとつ解決しながら他業界の取り組みも参考にして現在のビジネスモデルを構築した。ニトリが、このビジネスモデルを活用してマーケットとして最初の海外進出先として選んだのが台湾である。商品調達地として最初に台湾に進出した経緯から考えると、自然な選択だと言えよう。

 マーケットに対する理解が深いため、当然のことながら成功の確率も高い。また、消費者の嗜好や生活空間の広さなども日本に近く、日本で磨き上げてきた商品と市場の整合性も高い。しかし実際にビジネスを始めてみると、台湾でのブランド力の低さや、消費者が日本人よりも大型の家具を好むといった違いもあったようで、単年黒字化に6年を要した。製造拠点としてではなくマーケットとしての海外進出の難しさを改めて考えさせられる。ようやく台湾マーケットでの成功手法を見出し、今季はこれまでの年2〜3店の展開から5店に拡大し、スピードを上げていくそうである。

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