「上司学」から学ぶ、ほとんどのマネジャーができていない、最も大切なこと気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

どんなにすごい経営者やマネジャーでも、やっていることは普通の人とあまり変わらない。当たり前のことを徹底できているかどうかが重要だ。上司がやるべき「6つの当たり前」とは。

» 2014年02月12日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 大学卒業後入社したIT系ベンチャー企業の同期100人の中で、トップセールスマンとして活躍後、業績向上に寄与する独自プログラムである「上司学」を考案した嶋津良智氏。現在は、次世代を担うリーダーの育成を目的とした教育機関「リーダーズアカデミー」を設立し、学長として世界で活躍するグローバルリーダーの育成に取り組んでいる。組織の中でマネジメントに関わり、その後、独立しマネジメントを教える立場になった経歴をもつ嶋津氏に、うまくいくトップマネジメントが実践していることについて聞いた。

トップマネジメントになれるのは、当たり前のことを徹底できる人

中土井:これまでに多くのマネジャーと接してきたかと思いますが、うまくいっているマネジャーの共通点はありますか。

嶋津氏(右)と聞き手の中土井氏(左)

嶋津:当たり前のことを当たり前にできるかどうかがマネジメントでは重要だと思います。リーダーズアカデミーの「上司学」のセミナーでも、「マネジメントに魔法はないんだ」といつも言っています。

 セミナーでは上司がやるべき「6つの当たり前」の話をしています。「思考」・「体験」・「傾聴」・「行動」・「徹底」・「フォロー」です。「思考」は部下に考えさせること。「体験」は仕事を任せ、失敗も許容して、体験から学ばせること。「傾聴」は部下の話をよく聞くこと。「行動」は、部下に行動を起こさせること。「徹底」は、三日坊主で終わらないように、徹底してフォローをしていくこと。当たり前のことですが、これら全てを徹底できるかどうかで、トップマネジャーになれるかどうかが決まります。どんなにすごい経営者、マネジャーでも、やっていることは普通の人とあまり変わりません。当たり前のことを徹底できているかどうかが重要なのです。

 プレイングマネジャーが最初に陥る過ちは、部下の指導やフォローに時間を取られ、プレイヤーとしての効率が落ちてしまい、怒りっぽくなってしまうことです。その結果、部下とのコミュニケーションも上手に取れなくなってしまう。これでは上司がやるべき6つの当たり前は実行できません。

部下と同じ目線に立ち、一緒に上を目指すスタンスで指導する

中土井:ITベンチャー入社後、24歳の若さで最年少営業部長に抜擢された経歴ですが、その頃の失敗体験などはありますか。

嶋津:営業の部下たちが会社を出ていった後、数十人が同じ喫茶店でたむろして、仕事をサボっているという話を聞いたときはマズイと思いましたね。当時はトップマネジャーになり、私も調子に乗っていたときだったと思います。部下に対しても、多少強引なやり方をしていたので、私に対する不満があったのでしょう。なんとかその状況を打破するため、いろいろな企画をしました。「悪口大会」もそのひとつです。私のやり方に対する不満、会社に対する不満などをみんなにぶちまけてもらいました。

中土井:当時は、部下に対してどのように接していたのですか。

嶋津:自分のやり方で業績を上げられる人間はいいが、業績の上げられない人間は、文句を言わずに、私の言うことを聞けと言っていました。そのやり方が部下たちには強引に感じられたのかもしれません。

 私が30代前半くらいのとき、ある会社の社長に「あなたの普通と部下の普通は違うんですよ」と言われ、衝撃を受けたことがあります。部下のレベルを引き上げたいときは、彼らのレベルまで自分が下りていって、一緒に上を目指すというスタンスで指導するべきなのだとそのとき初めて気付きました。これができれば、部下との摩擦はなくなると思います。

部下の才能を見極めることも、上司の大切な仕事

中土井:部下と同じ目線で指導したとしても、伸びないことがあると思います。その場合、嶋津さんはどのように対応してきましたか。

嶋津:できない人間には、できない理由が必ずあります。私はよく「方向」「方法」「量」が間違っていなければ成果が出ると言っています。まずは、部下と同じ目線に立って、「方向」「方法」「量」が間違っていないか、よく考えてあげることが必要です。それでも伸びない場合は、部下の資質や才能の問題ということもあるでしょう。そのようなときは、異動させるか、退職させたほうがいいと思います。私はよく「部下の飼い殺しはするな」と言っています。どんなに素晴らしい会社だとしても、その会社でみんなが幸せになれるわけではありません。それぞれの人間が、それぞれの幸せを求めて、いろいろな部署に行ったり、他の会社に行ったりしていいんです。その人が幸せになれる居場所を見つけられるよう導いてあげることも、上司としての大切な仕事です。

中土井:部下の資質や才能の見極めはどのように行なってきましたか。

嶋津:私は、自分の目を信じていますが、同時に、同じくらい疑ってもいます。部下が伸びないのは資質や才能の問題だと考えたときは、その部下と私の間の中間管理職に、現場に同行させるなどしていました。私の意見は事実ではなく、あくまで私のフィルターを通った私見です。自分の意見が本当に事実なのかを確認するために、周りに意見を求めることが大事だと考えています。

自分にしかできないことに集中し、できないことは人にやってもらう

中土井:自分の意見を通すのではなく、周りからの意見を求めることを大切にしている印象を受けました。そのような考えを持つようになったのには、何か理由があるのですか。

嶋津:私はもともと小心者なところがあります。信じてもらえないかもしれませんが、どうやったら自信を持って生きられるのかというのが、いまだに私の人生のテーマです。

 私は俗に言う凡人で、ダメ人間のカテゴリに入るような人間でした。三流大学に入り、アルバイトばかりしていたので、留年までしてしまいました。バブルの絶頂期だったのに、就職活動はうまくいかなくて、全然内定がもらえなかった。やりたいこともなかったし、受かればどこでもいいやと思って、最初に内定をもらった会社に入りました。昔から、ごく普通の子どもだったので、自分の中に特殊な能力や才能があるという感覚がありません。

 社会人になってからは、どうやったら才能がなくても成果を上げられるのかを考えるようになりました。今の私があるのは、自分にしかできないことに集中するのが重要だと気付き、自分にできないことは人にやってもらうという結論に達したからだと思います。

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