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» 2015年01月07日 08時00分 UPDATE

経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意:【新連載】お客さまを増やしたければ、非顧客に聞け! 地方路線バス会社復活の秘密に迫る (1/2)

顧客の減少をストップさせ増収増益をかなえた十勝バス。40億の負債を抱える赤字会社が見事な復活劇をとげた。

[聞き手:井上敬一、文:牧田真富果,ITmedia]

 地方路線バス会社として、全国で初めてお客さまの減少をストップさせ、増収増益をかなえた十勝バス。お客さまの自宅を一軒一軒直接訪問、路線バスを利用して観光地をまわるバスパック商品の開発など、それまでの地方路線バス会社の常識を打ち破る施策を多数実施した。お客さまの不安を解消することに努めた結果、増収増益を実現する。見事な復活劇の裏にあったお客さま満足度を高めるための地道な取り組み、野村文吾社長の想いに迫った。

多額の負債を抱える赤字会社が生まれ変わったターニングポイント

150107nomura.jpg 十勝バス 野村文吾社長

井上:野村さんは、多額の負債を抱えていた十勝バスをお父さまの代から引き継ぎ、お客さまの減少からの脱却をかなえるさまざまな施策によって、会社復活の立役者となりました。これまで十勝バスはどのような変遷をたどってきたのですか。

野村:十勝バスは大正15年(1926年)に創業しました。帯広市内をはじめ、十勝方面で路線バス、貸切観光バス、スクールバスや福祉ハイヤー事業などを展開しています。利用者数のピークは昭和44年の2300万人。現在の利用者数は400万人です。利用者数は5分の1以下に減少しています。

 私が入社した1998年当時、十勝バスは40億円もの負債を抱える危機的な状況の会社でした。1900年から徹底した合理化を行い、資産の売却や人件費削減に取り組むことで、会社をなんとか存続させている状態でした。

 社長になって10年が過ぎた頃、人件費の削減にも限界が見え、営業を強化する施策に打って出たことをきっかけに、会社の状態が好転し始めます。地域のお客さまの自宅へ直接訪問し、挨拶をするとともに、お客さまの声を直接聞いてまわったのです。そこで得た意見をもとに、サービスの改善に取り組みました。それまでのバス会社の常識は捨て、お客さまのニーズを確実につかむことで、着実に売り上げを伸ばしていきました。

井上:40億円もの負債があったにもかかわらず、会社を継ごうと決心したのはどうしてですか。

野村:当初、父からは「会社をたたむことにした」という報告を受けていました。一度は了承したのですが、思い直し、私に社長をやらせてほしいと頼みに行きました。

 それまで、父からは会社を継いでほしいと言われたことは一度もありませんでした。自分の力を信じて自分で道を切り拓いていけと言われて育ったので、いつも自分の好きなように生きていたように思います。しかし、そうやって好きなことをしてこられたのも、十勝バスがあったからこそ。地域の皆さんが十勝バスを利用してくれたおかげなんです。このことに気付いたとき、誰もやらないなら私がやるしかないという想いが湧いてきました。地域の皆さまに恩返しをしたいという気持ちが強かったですね。

お客さまとの信頼関係を結び直す地道な訪問活動から改革が始まる

井上:地域の皆さまのためという気持ちが強かったからこそ、成し遂げられた会社の復活だと言えそうですね。具体的にはどのような施策を行ったのですか?

野村:徹底的な合理化が進められ、人件費の6割をカットしていたので、それ以上の削減は難しい状態にまで追い込まれていました。2006年、急激な原油高騰によって経営がさらに圧迫されたことをきっかけに、翌年の2007年から地域の皆さまのもとへ直接足を運ぶスタイルで営業活動を始めました。それまでの十勝バスは、40年間毎年乗客数が減り続け、一度も増えたことがありませんでした。そのような背景がありましたので、営業活動を始めた当時は、社内には無駄な努力だという雰囲気が漂っていました。

 営業活動は、ひとつの停留所から半径200メートルの範囲に限定して始めました。その停留所付近の民家を一軒一軒訪問し、意見を聞きました。バスを利用しなくなったのは、地域の皆さまとバス会社との間の信頼関係が弱まってしまったからです。たわいもない会話だとしても、直接相手の顔を見て話すことで、信頼関係を結び直していけると考えたのです。

井上:実際に地域住民と話をしてみて、どのような反応がありましたか。

野村:玄関先で「十勝バスです」と伝えると、7割の人が玄関を開けてくれました。80年間にわたってバスを運行してきた信頼がまだ残っていたんだと実感しました。バスの話をすると、バスに乗っていないことを謝る方がほとんどでした。公共交通機関は町づくりと表裏一体だと言われます。バス会社が苦しくなることで、自分たちの町によくない影響が出ていると心の底では理解しているのだと分かりました。そう感じているならば、信頼関係を結び直し、誰もが利用しやすい環境さえ整えれば、バスを利用してくれる可能性が高まるかもしれません。十勝の皆さまが年に1回でもバスに乗ってくれれば、業績は好転します。地域の皆さまの声に真摯に向き合い、改善点をあぶり出しました。

お客さまの不安を解消する施策によって、利用者数がアップ

井上:バスを利用しやすい環境を整えるため、具体的にはどのようなことをしたのですか。

野村:実際に話を聞いて多かったのは、「バスの乗り方が分からない」というものでした。「バス停があるのは知っているけれど、どこに行くのか分からない」「料金がいくらなのか知らない」「バスの扉は2つあるけれど、どこから乗ったらいいのか分からない」「料金をどこで支払うのか分からない」というような声です。私たちバス会社の人間は、バスの乗り方を知っている前提でお客さまと接してきたので、このような声が多数あったことに衝撃を受けました。

 確かに、もし自分が知らない土地へ行ったとしたら、行先が分からないので、バスには乗れません。分からないという状態は不安につながり、不安はバスの利用を阻害している要因になります。不安を解消すれば、バスに乗るモチベーションを高めてもらえるかもしれないと考えました。

 それからは、地域の皆さまのもとへ訪問するとき、バスの乗り方を丁寧に説明してまわることにしました。皆さまからいただいた声をもとに、バスの乗り方を分かりやすく解説するパンフレットも作成し配布しました。その甲斐があったのか、乗客が少しずつ増加。結果が出たことで、社員たちも自信を持つようになっていきました。ひとつの停留所から始めた営業強化活動は徐々に範囲を広げ、着実に乗客数を増やしていったのです。

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