成功するクロスボーダーM&Aのために視点(1/3 ページ)

日本企業が関わるM&Aは急増しすでに経営手法の一つとして定着した。しかし成功確率は50%以下との調査結果もある。クロスボーダーM&Aとなるとさらに成功確立は低い。成功に導くための5つの要件とは。

» 2015年02月16日 08時00分 公開
[渡部 高士(ローランド・ベルガー),ITmedia]

1.日本企業が関わるM&Aの動向

日本企業が関わるM&Aの件数と金額推移

 日本企業が関わるM&Aの件数は、2000年ごろから急増し、483件(1992年) から、2048件(2013年) にまで拡大し、すでに一般的な経営手法の一つとして定着してきたといえる。(図A参照)

 中でも、日本企業による海外企業・事業の買収である、クロスボーダーM&A(IN-OUT)案件も年間500件程度に拡大しており、数千億円から1兆円を超える案件が見られるようになってきた。M&Aを活用して、自社の成長・勝ち残りを実現する例は一般的になってきたといえよう。

  • 1-1.日本企業が行うクロスボーダーM&A(IN-OUT)案件の推移

 日本企業の実施するクロスボーダーM&A(IN-OUT)案件は、2014年には、サントリーホールディングスが米ビーム社を1.6兆円で買収し、ミツカンホールディングスがパスタソース事業をユニリーバから2150億円で買収するなど大型案件に注目が集まった。しかし、実際にはクロスボーダーM&A(IN-OUT)案件を買収側企業規模別を見てみると、売上高1兆円以上の上場企業の行うものは、そのうち3割程度に留まり、未上場企業や売上高500億円以下の企業が関与するものが4割に上るなど、その裾野が広がっていることがわかる。より幅広い企業にとって、「他力」を活用した海外への事業展開が経営上の手段として受け止められているといえる。

 地域別に見ても、これまでの米国、欧州に加えて、アジアが件数ベースで4割にまで拡大するなど、クロスボーダーM&A案件そのものが、より、裾野を広げ、案件の多様化が進んでいるといえる近年のクロスボーダーM&A (IN-OUT) 案件を見てみると、戦略的な目的についても多様化が進んでいることがわかる。中でも特にアジア地域を中心とした成長地域の取り込みを目的とする案件が増加傾向にある。

I.成長地域への進出

(例:グリコによるDalya Citramandiri (インドネシア) 買収)

II.成長事業の取り込み(例:ポーラによるJurlique買収)

III.コスト削減を含む効率化

(例:マルハニチロによるAustral Fisheries買収)

IV.グローバル再編への対応

(例:サントリーホールディングスによるビーム買収)

2.成功するM&Aは5割程度

 M&Aの戦略的な重要性が高まる一方で、M&Aを成功に導くことの難しさについては十分な留意が必要である。M&Aの成功確率に関する各種調査を見ると、M&Aの半数以上は失敗に終わっており、日本企業が行うクロスボーダーM&Aの9割は失敗に終わっているとの評価を行う調査結果も存在する。実際に、企業経営者に対して実施したアンケート調査によると、オペレーション面まで含めてM&Aが成功したと答えた企業は4割に満たない。

 実際に買収から10年以上経た海外買収案件(100億円以上、50%以上取得) 116件のうち、すでに撤退や売却したものが51件に上るという調査もあり、クロスボーダー案件になればその難易度もさらに増していることに留意が必要である。

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