「“具体的”であることだけが本当に良いのか?」――「具体と抽象の往復」で考えるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

「あの人の話は抽象的でさっぱりわからない」「抽象論はやめて具体的な話をしよう」……。このように、「抽象」という言葉がビジネスの場面で使われるのは、圧倒的に否定的な文脈においてでしょう。「具体が善で抽象は悪」……これは本当なのでしょうか? 本当は「具体と抽象の往復」こそが、ビジネスをうまく進める秘訣なのです。本稿では特に、必要以上に不当な評価を受けている「抽象」の有効性について考える。

» 2015年02月19日 08時00分 公開
[細谷功,ITmedia]
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具体と抽象

 ビジネスに限らず日常生活でもさまざまな場面で「分かりやすさ」が求められています。その代表が「具体性」です。反対に「抽象的」であることは、分かりにくさや曖昧さの代名詞と受け取られ、常に嫌われる対象となっているようです。本稿の目的はこの「抽象」にスポットライトを当てて、その有効性を再認識することです。「具体と抽象」という視点を持つことで、確実にビジネスの世界が変わって見えてきます。それによっていままでもやもやとしていた課題への打ち手が見えてくるかもしれません。

 まずは具体と抽象との関係について整理しておきましょう。具体というのは、目に見えたり触ったりすることのできる一つひとつの事象のことです。抽象というのはそれら具体を同じ特徴で「ひとくくりにした」概念のことをいいます。つまり、具体と抽象は「N:1」、つまり複数の具体に1つの抽象レベルの名前が対応するという関係です。この関係づけを抽象化といいます。

 抽象化によって何のメリットがあるのでしょうか?一言でいえば、まとめることで応用が利くということです。人類の知的能力は「数」と「言葉」によって支えられているといってもよいでしょう。その基本となるのがこの抽象化という概念なのです。「数」と「言葉」による一般化によって科学の法則が記述され、史実が一般化されて後世に残るという形で人類の知が蓄積されてきました。このように「抽象化」は人間を人間たらしめている最大の知的な武器と言えます。

 ここで具体と抽象の比較を整理して示します。

 続いてこれら「具体と抽象」という視点がビジネスの具体的な場面でどのように役立つのかの例を見ていきましょう。

「顧客」の声は聞くべきか聞かざるべきか?

 「“お客様は神様”であり、顧客の声は絶対である」に対して「顧客のいうことを聞いていては良い商品はできない」……このような全く異なる2つの意見があります。これらはどちらが正しいのでしょうか?もちろんこれらは「どちらも正しい」のですが、それでは何の参考にもなりません。

 実はこれらの違いを説明するのに、最も適切なのが「具体と抽象」という視点なのです。

 既存の製品やサービスに対しての顧客のクレームというのは、往々にして「◯◯の位置をずらして欲しい」とか「××を長くして欲しい」といった、よくも悪くも「現状あるものの改善」に相当する「具体的な要望」しか出てきません。

 既にできあがったものを改善するためにはこのような要望の一つひとつに丁寧に対応することは重要ですが、それだけでは「顧客を驚かす」ような斬新な商品は出てきません。

 そこで革新的なイノベーションのためには「顧客の声は聞かない」という姿勢が必要になってきます。ところが、これは「顧客を無視する」こととは全く意味が異なります。それは、上記のような具体的なレベルではなく抽象的なレベル、例えば「個性をアピールしたい」とか「通勤時間を効率的に過ごしたい」といった「直接語られていない」抽象レベルの高いニーズを読むことが必要であることを意味します。つまり、2つの意見の相違は「具体か抽象か」という視点の違いだったというわけです。要は時と場合によって、具体レベルに着目すべき場合と抽象レベルに着目すべき場合があるということです。

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