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» 2017年01月26日 07時26分 UPDATE

VUCA時代の必須ツール「シナリオ思考法」:【新連載】想定外を乗り越える思考法 シナリオプランニングとは? (1/2)

「大きな流れ」、つまり市場を取り巻くさまざまな環境の変化に意識を向けなければ、生き残っていくことが難しい時代になってきた。長期的な視点から起こり得る未来の可能性を見るための手法が必用だ。

[新井宏征,ITmedia]

 「私たちは間違ったことは何もしていない。ただ、なぜだか分からないが、私たちはだめになってしまった。(We didn't do anything wrong, but somehow, we lost.)」

 とても身につまされるこのセリフを口にしたのは、マイクロソフトに買収された時点のノキアのCEOです。買収されたことを発表するプレスカンファレンスでのスピーチをこのせりふで締めくくりました。

 1998年から2011年まで世界の携帯電話市場でトップを走り続けていたノキアは2012年の第1四半期でトップの座をサムスンに受け渡します。その後、マイクロソフトにDevices & Services部門を売却することになったのが2013年9月。数年前までトップを走っていた企業が転がり落ちていく過程は、多くの人に衝撃を与えました。一体、ノキアの身に何が起きたのでしょうか。

ノキアの携帯電話事業を取り巻く環境の変化

 ノキアの携帯電話事業の失敗について、さまざまな分析がなされていますが、そのひとつにスマートフォン市場への本格的な対応が遅れた点が指摘されています。ノキアは2011年まで携帯電話市場でシェアトップでしたが、株価で見ると同社は2007年11月に時価総額のピークを迎えており、それ以降、ピークを超えることはできていません。

 この2007年という年は、携帯電話市場において大きな転換点となった年でした。その転換点となったのが2007年6月29日に発売されたアップルのiPhone、そして2007年11月5日にリリースされたAndroidのベータ版です(正式版であるAndroid 1.0のリリースは2008年9月23日)。現在のスマートフォン市場の99%以上のシェアを占める(注1)2つのOSがリリースされたのが2007年なのです。

 ただし、ノキアがスマートフォン市場において後発だったわけではありません。実はノキアはアップルなどよりも早くスマートフォンを世に出しています。例えば同社のOSであるSymbian OSを搭載したNokia 7650は2002年6月に発売されています。(注2)

 それにもかかわらずノキアがスマートフォン市場を席巻できなかった理由のひとつとして、ソフトウェア面での弱さが指摘されています。実際に、「ノキアが変更にほとんど時間をかけなかったオペレーション・システムという要素が、唯一の関心事になりました(注3)」という言葉をノキア役員が語ったと言われています。その上で、利用者は端末のデザインや着信音などを気にするよりも、スマートフォン上で使うことができるアプリに関心が移っていってしまったと語っています。

 その他、通信方式の採用のミスや新興市場での失敗など、さまざまな点が指摘されていますが、多くの点で共通しているのは大きな環境変化を見誤ったということです。実際、ノキアCEOのスティーブン・エロップ氏は「大きな流れを見逃し、時間を無駄にした(注4)」とコメントしています。

・注1:2016年第2四半期時点のデータ(データ元:IDC: Smartphone OS Market Share 2016, 2015

・注2:参照元:Nokia 7650 - Wikipedia

・注3:参照元:『成功は"ランダム"にやってくる!』

・注4:参照元:『成功は"ランダム"にやってくる!』

外部環境の変化を見る視点

 エロップ氏が言う「大きな流れ」、つまり市場を取り巻くさまざまな環境の変化に意識を向けなければ、生き残っていくことが難しい時代になってきました。

 例えばノキアが注視しなければいけなかった環境変化は、当時同社にとっては競合でさえなかったアップルのiPhone市場投入やAndroidのリリースといったものに加えて、モバイルコミュニケーションの進化やユーザの志向の変化などが挙げられるでしょう。

 このような環境変化が自社に及ぼす影響を長期的な視点でとらえ、その変化に適用していくことができなかったのが、ノキアが携帯電話事業から撤退せざるを得なかった大きな要因だと考えます。

 現在はVUCAの時代だと言われています。VUCAというのは、私たちを取り巻く環境の変動性が高く(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑で(Complexity)、曖昧な(Ambiguity)時代であることを意味しています。このような時代においては、変化の兆候をとらえ、それを元に意思決定をし、日々の行動をしながらも、一度決めたことにこだわりすぎずに計画や行動を変えていくことが必要です。「アジャイル」という言葉はソフトウェアやサービスの開発者だけのものではなく、エグゼクティブやマネジメントも意識をし、日々の業務に取り入れていかなければならない視点です。

 このように私たちを取り巻く環境変化の兆候をとらえ、長期的な視点から起こり得る未来の可能性を見ていくための手法が、今回の連載で紹介するシナリオプランニングです。

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