現場力を高め、顧客目線でシステム開発に取り組む体制とするために 〜優秀な若手システム部員をフロントに異動〜「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(1/2 ページ)

変化の激しいクレジットカード業界で、競争力を強化するためにIT活用は不可欠だ。若い社員を育てる秘訣(ひけつ)とは――

» 2017年07月26日 07時06分 公開

 1967年の創業から50年以上、日本におけるVisaのパイオニアとして、またキャッシュレス化を先導する総合決済事業者として、日本のクレジットカード業界をけん引してきた三井住友カード。決済ビジネスが目まぐるしく変化する現在、キャッシュレス社会の本格化やデジタルイノベーション、刻々と変化する顧客ニーズを適切に捉え、先んじて提案していくこと(=CX)が成長へのキーポイントだといわれている。

 激変するクレジットビジネスの環境で、ITを活用したデジタルイノベーションをいかに実現しているのか。また、CXを実践するための人材をどのように育成していこうと考えているのか。三井住友カード 専務執行役員 システムセキュリティー最高責任者 技術士(情報工学部門)の森陽一氏に話を聞いた。

2つの大規模システム開発プロジェクトに参画

――まずは、これまでどのような事をされてきたのかを教えて下さい

三井住友カード 専務執行役員 システムセキュリティー最高責任者 技術士(情報工学部門) 森陽一氏

 1982年に中途採用で日本総合研究所の前身である日本情報サービスに入社し、技術開発部に所属。入社したこの年に、タンデムコンピューターズ(現在の日本ヒューレット・パッカード)のNonStopサーバを導入するプロジェクトに参画しました。このプロジェクトは、24時間オーソリゼーション(クレジットカードが利用可能であるかどうかの信用確認)を実現するためのシステム開発でした。

 そして、1990〜1993年で、現在も稼働しているクレジットカード基幹業務システム「サミット」の開発プロジェクトに参画しました。この開発PJは基本構想段階から参画し、開発工程になってからは、システム制御系の開発リーダーとして、特定の通信制御系ソフトの開発を基本設計からプログラミングの一部までを担当し、「モノ作り」に専念をしていました。開発PJが終了したとき、自分が構想したシステムが構想通り稼働することを体験し、大きな達成感を得ました。

 1993〜2003年は、新しい技術の導入や海外の先進的なパッケージを導入する開発プロジェクトに参画しました。2004年には開発プロジェクトに参画する立場を離れ、基盤技術を統括する役割を担う組織の立ち上げをけん引し、2006年、日本総研ソリューションズ(現在のJSOL)の技術本部長に就任しました。

 その後、2008年に縁あって三井住友カードに入社し、現在に至っています。

――大規模システム開発終了後の取り組みについて教えて下さい

 1982〜1993年の「モノ作り」に専念していた期間は、システム制御系ソフトの開発を基本構想から担当し、異なるコンピュータ間接続の通信制御ソフトや対外的なクレジット決済ネットワークとの接続制御、アプリケーション稼働を制御するソフトなど、OSに近いところのシステム開発を担当し、コンピュータの基本ソフトの開発を手掛けていました。ITベンダーの基本ソフトに近いシステムプログラミングを担当してきた関係で、仕事を通してITベンダーのエース級エンジニアとの人脈ができ、将来の大きな財産ができました。

 1993〜2003年は、20代の「モノ作り」の経験をベースに、提案型システムエンジニアのような活動や顧客企業に常駐してシステムコンサルタント的な活動を行うと共に、新しい開発テーマ(当時ではコールセンターやインターネットシステム)や海外の先進パッケージを導入するなど、新しいビジネステーマに顧客と共に率先して取り組みました。この間、プログラミングはしませんでしたが、いろいろなシステムを手掛けたことで、ITベンダー以外の幅広い人脈を築くことができました。

――このとき培った人脈はどのように生かされているのでしょうか。

 20代、30代に築いたITベンダーとの人脈は、基盤技術を統括する組織の立ち上げを任され、若手の基盤技術者の育成スキームをいかにして実現するかに悩んでいたとき、エンジニア時代の人脈からITベンダーへの技術留学制度を創設してはとアドバイス頂き、エンジニアの技術人脈が生きました。

 また、三井住友カードに入社してからは、対外的に活動していた提案型システムエンジニアで得た人脈が私自身の活動を勇気付けてくれました。

新たな人材育成スキームによるシステム部門の組織作りを展開

――三井住友カードに移ってからの取り組みを教えて下さい

 クレジットカード会社は、巨大なシステムの装置産業です。決済もポイントの付与も、オーソリゼーションもシステムが稼働してこそ実現できています。これをけん引するのが、入社して任されたシステム企画部でした。当時のシステム企画部は、100人程度と十分な規模の組織でしたが、システム企画部出身者を他の部門に輩出していく人的余裕がありませんでした。しかし、クレジット産業はシステムの装置産業であるから、それのベースを支えるシステム人材を他の部門に輩出することで、ビジネスとシステムの双方を理解できる人材を会社の中で育成していくことが必要だと考えました。システムが理解できているなら、新しい商品やサービスをシステム化する目線で企画することができるからです。

 そこで、前職で基盤技術を統括する組織を一から作った経験を生かして、若手社員を受け入れ、育成していくスキーム作りに取り組みました。

 しかしながら、当社のように大規模な勘定系システムを支えるためには、勘定系の核となる専門的なスキルを備えた人材を確保してシステムの安定稼働を行うことが必要不可欠です。

 専門的な人材の確保と、環境変化の激しいフロント現場で新商品や新サービスを企画できる戦略的な人事ローテーションによる人材育成を行うことの双方が必要だと考え、3年、5年先を見据えた専門的な人材配置を描きながら、各部門から入社2年目、3年目の社員を受け入れ、5年間かけて育成し、他の部門に輩出する仕組みを目指しました。このとき、苦労したのは、「一定期間を過ぎると人は転出し、新たな人が着任する」と言う文化の形成でした。システム要員は専門的なスキルと業務知識も必要とし、ようやく習熟した若手社員を他の部門に転出させるとシステム開発に支障が出るとの批判もありましたが、「システム部門の経験者を他の部門へ輩出することはシステム部門のミッションの1つだと理解してほしい」と説得しました。

 今では約70人の方をシステム部門から輩出しました。こうした人材は、ユーザー部門とシステム部門双方の気持ちを理解できるため、新しいシステム開発においても、プロジェクトをスムーズに進めることができます。うれしいことに、システム企画部に異動したいという若者が増えています。戦略的に人材育成に取り組みましたが、ここまで来るのに10年かかりました。

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