「IT部門があるのは、立派なシステムをインストールするためではなく、利益を生み出すことに貢献するためだからだ」――カナダのスポーツ用品チェーン、フォーザニグループのCEOは、これをIT部門に自覚させることが必要だ、と語る。
カナダのスポーツ用品チェーン、フォーザニグループのCIO“代理”ボブ・サーター氏は毎週、ITディレクターと会議を開き、数時間にわたってビジネスについて話し合う。ビジネスがどのような状況にあるのか。その理解を共有することが会議の目的だ。
サーター氏がCIOの退職後、即座に後任CIOを任命しない理由は2つあった。IT部門をよりよく知りたいと望んでいること、それと同時に、IT部門にビジネスについてより多くを学んでほしいと考えていることである。
「われわれのIT部門は非常に優秀だ。これまで一緒に働いてきた中で、最も強力なIT部門であることは間違いない。ただ、彼らにはまず、ITが使われるビジネスに関する知識を深めることが求められている。そして、もし自分たちが自立的な組織だと考えているのであれば、その考えを捨て去る必要がある」
「IT部門があるのは、立派なシステムをインストールするためではなく、利益を生み出すことに貢献するためだからだ。IT部門にこの役割を自覚させることは、CEOにとって非常に重要だ」とサーター氏は力説する。
20年に及ぶIT分野での経験を経て、2006年にフォーザニに入社したビジネスソリューション担当シニアディレクターのリチャード・ハンナ氏によると、サーター氏はIT部門により戦略的な役割を持たせようとしている。
「フォーザニのIT部門は、組織として少し未熟なところがある。IT部門は、バックオフィスの、縁の下の力持ち的な役割を担う場合が多い。また、IT担当者は、画期的な最新製品に目がないが、新しい技術を導入するにはビジネス上の理由が必要だ。ボブ(サーター氏)はわれわれを指導するのに多くの時間を割く。今は、まさにビジネスについてしっかりと学んでいるところ。技術の話はめったにしない」(ハンナ氏)
CIOは、技術と同じようにビジネスもきちんと把握しなければならないと、ハンナ氏は付け加える。「CIOはまずビジネスパーソンたれ、ということだ」と。
サーター氏は、自分自身もIT部門について多くを学んでいると話す。フォーザニに入社してから10年間、ほとんどの間、IT部門は自分の指揮下にあったため、ITについて畑違いだと思ったことはなかった。「だが、IT部門に対するわたしの見方は偏っていた」と、サーター氏は振り返る。
「普段CIOとしか接していなかったため、IT部門のチームとしての力量を把握しきれていなかった。だから、IT部門では、メンバー間の連携が効果的に機能していることが分かった」
サーター氏は、IT部門が社内で取るべきスタンスを理解し、実践することを期待している。「担当している仕事が顧客と接する最前線の業務でない組織は、そうした業務に携わる組織の立場に立って行動し、結果を出すことに喜びを感じなければならない」と。そして、「そのためには、かなりエゴを抑える必要がある。IT部門は、小売部門の成功が自分たちの成功であると認識しなくてはならない。間接業務の担当組織は独り善がりになりがちだが、それを避けることが大事だ」と言う。
サーター氏はITに関し、IT部門が今後数年間で、プロジェクト管理とソフトウェア提供にかかわるビジネスプロセスの最適化を進めることを期待している。また、買収した企業を統合するのに時間がかかることを理解していない一部のCEOとは異なり、サーター氏はIT部門が困難な状況に置かれていることを認識している。
「IT部門は大いに奮闘している。急速な事業成長と組織の拡大で、IT部門にはかなりの負担がかかっている。まだ統合していない買収企業は数社あり、そこでのPOSの置き換えも必要になる。加えて、さらなる買収先として数社の企業に目をつけている。この買収が実現すれば、IT部門はさらに大変になる」(サーター氏)
フォーザニはいずれ、新しいCIOを任命することになる。「いつかはこの素晴らしい実験も終了する。それは、IT部門にビジネス指向が真に定着したと判断できる時だろう」と、サーター氏。そしてこう語る。「現時点では、内部昇格でCIOを任命する考えだ。まだIT部門のメンバーの実力は十分つかんでいないが、あと1年もあれば十分だろう」
サーター氏は新CIOに何を求めるのか。
「最初に言うことは、橋渡し役になること、顧客をよく知ること、そして、会社が間違っていたら異議を唱えることだ」とか。06年12月、CIOの問題が取締役会で改めて取り上げられた。サーター氏は、07年も引き続きCIO“代理”を務めるつもりだと説明した。
「現状はどうなっているのか」と、筆頭取締役のアル・ベルステット氏がサーター氏に尋ねた際、サーター氏が答える前に、フランチャイズ部門担当社長のトーマス・G・クイン氏が口をはさんだ。
「今までで一番うまくいっています」
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明治学院大学 経済学部准教授