将来に関する情報は、それなりの価値を持っているといっていい。しかし、それは「もっともらしさ」をまとうしかない場合が多い。
何かの始まりに際して、その先行きのことを知りたくなるのは人間の本性である。その意味で特に新年の始まりに前後して、いろいろな「見通し」と称する情報が世間には出回る。テーマは世界経済の動向に関するものだったり、自動車やITやファッションなど特定の市場についてのものだったりする。内容は市場成長率のような定量的なものと、トレンドやその年の特徴といった定性的なものに大別されるのが普通だ。
情報というものに、「新鮮さ」とか「ありきたりでない」といったことが求められる昨今だが、こうした将来に関する情報はそれなりの価値をもっているといえる。ただ、その一方で、すぐに結果が検証できるものでない限り、それは「確からしさ」とか「もっともらしさ」という宿命を負うことにもなる。楽観的なものであれ悲観的なものであれ、いくらユニークな見通しであっても、その根拠となるところが同意されない限り、情報としての価値を認められることは難しい。
言うまでもなく、将来を見通す根拠となるのは、現在の諸相に関する正確で豊富な情報、そして過去の分析から蓄積された経験則である。
これらはいわば材料と手法の関係にある。ここでいう現在に関する情報は、今日の情報社会の最も進んだ側面であることは間違いないだろう。「情報の爆発的増大」という言葉がよく使われるが、統計的な証拠はないものの、いま増大している情報のかなりの部分が、現在あるいはそれ以前の過去(厳密には「現在における過去」というのが正しいかもしれない)に関する情報であることは間違いないだろう。
数字などで明示的に捉えることができる事柄について、いろいろな「現在」を知ることは非常にたやすくなっている。天気に始まり、株価やニュース、いろいろな商品や話題に関して生活者がそれをどう受け止めているかなどについても、リアルタイムにその様相を見て取ることができるようになった。その状況はさらに広く深くなっている。
一方、もう1つの「経験則」については、捉えようによっては物理の公式や法律といったものから、いわゆる「野生の勘」の様なものまで、様々なものが含まれると考えられる。世間一般には、形式化された経験則に基づくことを「科学的根拠に基づく」と言う傾向があり、確からしさやもっともらしさを得やすいと思われているが、実際のところは逆に、信憑性が低下しているようにすら感じられる側面もある。
この側面に情報社会がもたらした恩恵についても、大きなものがあるのはもちろん間違いない。
しかしその多くは、全貌をつかみきれない「現在」を、ある部分から「推計」することによってもたらされているといっていいだろう。言い換えればつかもうとした努力は、「現在を正しく知る」ことに注がれてきたということになる。しかし、現在についての「もっともらしさ」が増大することと、将来の見通しの精度が高まることは、必ずしも同義ではない。これは「将来は現在の延長か」ということにも関わるのだが。
なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授