さまざまな講座、オンライントレーニング、セキュリティヒントの提供など、実際に効果があったかどうか、セキュリティの専門家たちはどう判断しているのだろう? 認識トレーニングの有効性を測定することは簡単ではない。ネットワーク侵入などの問題が発生しなかったことを、どのように評価できるだろうか?
ピッツィーニ氏のように、セキュリティ担当者の多くは従業員からフィードバックされる情報に依存している。ドレイン氏は、従業員からの質問をベースにセキュリティ認識の度合いを測定するという。また従業員の意識調査やソーシャルエンジニアリング/浸透度テストで、従業員のセキュリティ認識を探る企業もある。
USAフェデラル・クレジット・ユニオンは、過去2年にわたってソーシャルエンジニアリング・テストを行った。昨年は契約業者のふりをした監査人が、誰にもとがめられることなく、支店の休憩室に侵入できた。今年、監査人は2つの支店でロビーを通過することさえできなかった。またフィッシングメールについても、今年は引っ掛かった従業員が1人もいなかった。昨年は6割以上の従業員がだまされたことを考えると、大きな進歩と言えるだろう。
「自慢の息子を持つ母親のような気分だった」と語るのは、USAフェデラルの上級副社長でCIO(最高情報責任者)のキャロライン・ジェームス氏だ。
従業員に口うるさく言わず、楽しみながらセキュリティを意識させることが重要だ、と同氏は言う。USAフェデラルのセキュリティ認識プログラムには、新人研修プレゼンテーションと全従業員220名が毎年参加しなければならないコンピュータベースのトレーニングがある。ジェームス氏は定期的に従業員にメールを送ったり、イントラネットに記事を投稿するように心掛けているが、それらにはユーザーの関心を引き付ける愉快な画像が含まれていることが多い。同氏はまた、鍵の形をしたストレスボールを配布することがある。そこには「セキュリティの鍵は、あなたです」と印刷してある。
「セキュリティ上のミスが叱責(しっせき)や解雇といった重大な結果につながることを知れば、従業員は真剣にトレーニングを受けるだろう」といった意見がないわけではない。しかし、ジェームス氏をはじめ多くのマネジャーは脅しの戦略を否定する。むしろジェームス氏は、スタッフミーティングや全社一斉メールの中で、フィッシングメールや不正なアクティビティの形跡を知らせてきた従業員を積極的に賞賛するよう心掛けているという。
そうしたポジティブな対応はきわめて有効だ。「従業員が疑わしいものを発見したとき、すぐに電子メールで知らせてくれるようになった」とジェームス氏。「敵の侵入に備え、大勢の見張りを配置しているようなものだ」
USAフェデラルでは、監査人のパスワード強度テストに合格した従業員の氏名を公開したことで、従業員の間に健全な競争心が生まれたという。何人かの従業員は、自分のパスワードの強度がどれくらいかジェームス氏に問い合わせてきたという。「彼らは自分たちのパスワードがわずか15秒でクラックされたことにショックを受けていた」と同氏は笑う。
ケア・ニューイングランドでも、従業員向けセキュリティ教育の効果が上がっているかテストを行っている。コア・セキュリティ・テクノロジーズのソフトウェアを利用すれば、従業員にメールを送り、フィッシングや電子メール詐欺にどのように応答するか調べることができる。「もし彼らが偽のリンクをクリックしたら、トレーニングで学んだことを忘れないように、あとで声を掛ければよい。彼らは“ああ、そうでした”と答えるだろう」とペッシェ氏。
「トレーニングは役に立たない」と切り捨てるセキュリティ専門家もいないわけではない。例えば、マーカス・ラナム氏は、「ユーザー教育はコンピュータセキュリティにおける最も馬鹿げた6つのアイデアの1つだ」と書いている。もし効果があるなら、既にその効果が出ているはずだ、というのである。またセキュリティスペシャリストの中には、人間の正義感に依存するより、すべてをロックダウンしたほうが効率的だとする声もある。ペッシェ氏はそうした意見に懐疑的だ。
「システムの安全性を確保することには限界がある。結局、リスクを管理しながら対応していくほかない」と同氏。「たとえユーザーの50%しかトレーニングできなかったとしても、もしトレーニングしなければ、その50%は存在しない」
一方、ピッツィーニ氏は今日も新しいネタの仕入れに余念がない。
「セキュリティ認識トレーニングは、情報セキュリティにとってきわめて重要な要素だ。教育すればするほどユーザーは賢くなる」と同氏は強調する。
マカフィーは有害サイトから子供を守るための10の方法を提唱している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授