――数カ月前は史上空前の原油価格高騰で、現在は急激な円高。経営環境が激変する中で、いまあらためて管理職に求められる能力は何でしょうか。
小山 社長の仕事は方針を決定すること、社員の仕事は方針を実行することです。ただ、社長が正しい経営判断をするには、前提として現実現場の情報が必要です。それを現場から吸い上げて伝達するのが管理職の役目。とくに企業を取り巻く環境が刻々と変化するいま、トップが適切な決定を下せるかどうかは管理職の迅速かつ正確な報告にかかっているといってもいい。
いままで期日通りに支払いをしてもらっている取引先が、初めて入金が遅れたとします。ここで「結果的に入金があったから報告の必要はない」、「報告するにしても来月の定例会議で言えばいいだろう」と考える管理職は会社を危機に陥れる。実は取引先が資金繰りで追い詰められていて、最悪の場合は連鎖倒産に巻き込まれるかもしれない。トップに情報が届くのが少し遅れただけで、こうした事態は本当に起こりうるのです。
――報告は仕事の基本だと思いますが、人によって報告能力にそれほど大きな差があるものでしょうか?
小山 ダメな管理職は、まず自分の意見から報告する傾向がありますね。報告の正しい順序は、「最初に数字、次にお客様の情報、さらに競合の情報、そして最後に自分の意見」です。数字はそれだけで言葉ですから、どんな情報より説得力がある。それを後回しにして自分の考えを延々と説明すれば、上司の時間を無駄に奪うだけでなく、決定のスピードも遅れてしまいます。
文書での報告するときも、ダメな管理職ほど報告書の作成に時間をかけます。立派な報告書を作ったところで、上司にじっくりと読んでいる余裕はない。弊社では、「報告書はA4に三行以内。箇条書きでオーケー」と決めています。これなら報告する側もされる側も負担が軽いので、情報がさくさくと上がってくる。
――報告はディテールよりスピード重視ということですね。
小山 そうです。報告が遅いと、トップは過去の情報をベースに判断せざるを得ない。一寸先は闇のこの状況では、それが命取りになることもあります。管理職は概要でいいのでスピード優先で報告する習慣を身につけるべきです。
――その他、ぜひ磨いておきたい能力やスキルがあれば教えてください。
小山 報告の次に大切なのは実行力。さきほども言ったとおり、管理職はトップの方針を現場で実行するのが仕事です。このときあれこれ考えて行動が遅れるようでは、トップが迅速な意思決定をした意味がない。仮にトップの方針に疑問があったとしても、直ちにそれを実行するのが良い管理職です。
――トップに間違った判断を下したときもですか?
小山 もちろんです。ビジネスに100%の正解はないのだから、方針が正しいかどうかは実際にやってみないと分からない。ただ、仮に方針が間違っていたとしても、とにかく実行して結果が出れば素早く修正ができます。実際、私も何度か誤った方針を打ち出した経験がありますが、社員が迅速に実行してくれたおかげで、いずれも会社が傾く前に軌道修正できました。
一方、管理職が異を唱えて方針を実行しなければどうなるか。トップはいつまでも間違っているかどうかの検証ができないし、もたもたしている間に状況が変わって、本当は正しかった方針が通用しなくなる恐れもあります。何かと言い訳を並べて実行を渋る管理職は、組織にとっては百害あって一利なしです。
――管理職に意思決定は必要ないのでしょうか。
小山 それは少し違う。現場のマネジャーであれば、実務レベルでさまざまな決断を迫られます。ここでも重要なのはスピード。マネジャーが決定を先延ばしにすると、部下は動きたくても動けませんから。
――報告、実行、意思決定と、あらゆる局面でスピードを求められるわけですね。
小山 そのとおりです。管理職が経営層より危機感を持てないのは仕方がないことかもしれませんが、「慌てなくてもそのうちなんとかなるだろう」では、この難局は乗り切れない。部門や現場の責任者は、ぜひ当事者意識を持って仕事に取り組んでもらいたいですね。
こやま・のぼる 1948年、山梨県生まれ。オフィス、家庭向け環境関連商品のレンタル事業や経営サポート事業を手がける株式会社武蔵野は、2000年度に日本経営品質賞、2001年度に経済産業大臣賞、2004年度に経産省推進の「IT経営百選」の最優秀賞を受賞。現場に根ざした経営ノウハウを学ぼうと、全国から数多くの中小企業経営者が勉強会に訪れている。『辞めない採用、即戦力の育成で儲かる会社になる!』(あさ出版)、『社長! 儲けたいなら数字はココを見なくっちゃ!』(すばる舎)など著書多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授