トーマス・フリードマンの言葉を借りるまでもなく、世界は“フラット”になり、あらゆる企業がグローバル競争に介入できる時代が到来した。新連載「加速するグローバル人材戦略」では、グローバル経営における人材戦略について、体系的な理論や成功企業の事例などを交えながら、将来のあるべきグローバル人材像を模索する。
世界はもはや丸くなく、平ら(フラット)である。正確にいえば、世界は物理的に平ら(フラット)ではなく、検索サービスやネット技術の発展により、ヒト、モノ、金、そして情報が国を超え世界規模で、同時に飛び交う世界の比喩(ひゆ)的表現である。
『フラット化する世界』の著者、トーマス・フリードマン氏は法人から個人へ、先進欧米国から新興国へ競争機会が移りつつあることを、世界の競技場がフラットになる、という単純な言葉で定義した。世界がフラット化しつつある現実の中では、先進国や新興国、大企業や中小企業問わず、誰もがグローバル競争の競技者である。
フラットな世界において、企業はグローバル市場への対応を強いられる。経営の父と呼ばれたピーター・ドラッカー氏が述べるように、経営とは科学ではなく実践であり、戦略よりも人である。大手日本企業を見ると、グローバル経営を実践するため、グローバル人材を育成し配置していくことが経営課題となっている。それは自社のグローバル人材像を構想し、キャリアパスに海外勤務を組み入れ、幹部候補生を育成していくことにほかならない。世界フラット化時代の経営とは、人的資本が将来の企業成長を左右する。
当連載では、グローバル経営という枠組みにおける人材戦略について、周辺構成要素との関連性を述べるとともに、日本企業や外資系企業の実例を踏まえ、将来のグローバル人材像について考察する。各企業のグローバル人材像は、戦略や事業領域、理念、組織体制などにより異なる。各企業が理想とするグローバル人材の育成に、当連載が少しでも参考になれば幸いである。
グローバル経営とは何か。さまざまな定義が存在するが、当連載では「世界市場を単一市場(グローバル市場)として経営を行うこと」とする。通常の国内経営と比較した場合、グローバル経営とは、世界レベルでの事業成長と生産性向上(コスト削減)の実現である。グローバル市場における各国・各地域の法規制や競合環境の違いは乗り越えるべき課題として容易にとらえられるが、各国・各地域の文化的差異や慣習の影響はあまり重要視されないことが多い。中でも各国の文化や慣習の違いは、人的資本に最も大きな影響を与える要素である。故にグローバル人的資本マネジメントは難しく、人的資本を適切にマネジメントすることで差別化要素ともなる。グローバル経営における人材マネジメントとは企業競争優位の源泉である。
具体的にグローバル経営をふかんしてみたい。簡単なフレームワークでグローバル経営の3大目標と構成要素を階層別ピラミッドでみる(図1)。
グローバル経営の目標は、大きく次の3点に集約される。(1)グローバル市場における事業展開(主に製品・サービスの提供)、(2)各国、各地域のローカル対応(製品・サービスのローカル化、法規制、人材、グローバル化とのバランス)、(3)グローバルナレッジ(知見や洞察)の学習と活用、である。これは単一国の市場だけではなく複数国の市場での事業活動を行うことで、規模の経済性と範囲の経済性を生かすとともに、グローバル市場をふかんしたナレッジやイノベーション、組織学習、個別ローカル市場への適応が必要になるからだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授