世界でもユニークな卵の中で卵黄のみを使ったキユーピーマヨネーズは、深いコクとうま味を実現し、今や日本の食卓に欠かせない存在に成長した。
キユーピーのマヨネーズ発売から3月で100年を迎える。世界でもユニークな卵の中で卵黄のみを使ったキユーピーマヨネーズは、深いコクとうま味を実現し、今や日本の食卓に欠かせない存在に成長した。背後には品質向上の歴史があり、それはマヨネーズの劣化を招く酸素との戦いの歴史でもある。近年は本場の米国をはじめ海外進出を強化。「世界のキユーピー」を目指して進化を続けている。
「サラダだけじゃなく、ご飯、お好み焼き、焼きそば、ハンバーガー、サンドイッチにも合う。かけるだけでなく、混ぜる、焼く、ソテーするなど、いろいろな使い方もできる」
国内外でキユーピーマヨネーズが受け入れられてきた理由に、高宮満社長はその万能性を挙げた。前提となるのは、主原料の中で卵は卵黄のみを使った「卵黄タイプ」が生み出す「コクとおいしさ」と断言する。
キユーピー創業者の一人である中島董一郎(とういちろう)が、欧州発祥のマヨネーズに米国で出合ったのは1915年。味の良さと栄養素の高さから、日本人の体格や健康の向上に寄与すると信じ、25年に国内製造を始めた。
卵は栄養価がより高くなる卵黄タイプを採用。欧米で主流の比較的さっぱりした味わいの「全卵タイプ」と比べた濃厚さが特徴だ。ブランド名は中島が「誰からも愛されるように」と、日本でも人気だった米国発の妖精キャラクター「キューピー」から名付けた。
発売後も品質向上は常に最大のミッションだ。研究員でもあった高宮氏は「マヨネーズのおいしさ維持は酸素との戦い。原料の7割を占める油の酸化をいかに防ぐかが課題」と話す。
発売直後の1926年に原料をかき混ぜる際に酸素が入るのを防ぐ真空ミキサーを導入。片手で気軽に扱える現在のポリエチレン製ボトル容器(58年発売)は当初、以前の瓶容器に比べて保存性が悪かったが、72年に酸素を通しにくい多層タイプに変更された。
また、容器の口に貼る外部の酸素を遮断するアルミシールを導入し、口と本体の間にわずかに残る空間の酸素を窒素に置き換える措置もとった。
2002年には原料の油の中に溶け込んだ酸素を取り除く「おいしさロングラン製法」を確立。設備投資に多額の費用を要する同製法を巡っては、賞味期間の延長を追求することに懐疑的だった当時の役員から反対意見も出たが、高宮氏が必要性を説いて採用が決まったという。
その後も製造工程の酸素を減らす取り組みは続き、1970年代にはおいしく食べられる目安を「夏季は3カ月」としていたが、現在は主力サイズの製品で賞味期間が13カ月に達した。食品ロスの削減や船便による輸出拡大につながった。
酢もリンゴ果汁やモルトを使ったコクや香りが強まる独自の専用酢を開発し、ふたは用途別に形状の異なる口を使い分けられるダブルキャップを導入。味も使い勝手も進化させてきた。
国内トップの地位は揺るがず、海外でも同社製マヨネーズは徐々に浸透。9年前に国内の売上高は海外の2.5倍の規模だったが、直近の2023年12月〜24年11月期の売上高は国内の591億円に対し、海外も過去最高の480億円まで達した。
英調査会社ユーロモニターなどによると、世界シェアで5本の指に入るが、トップ企業にはまだ大きな差があるとされる。キユーピーは今年5月に米国で海外12カ所目となる新工場の稼働を始めるなど海外展開を加速。「日本で鍛えられた商品は海外でも通用する」(高宮氏)と意気込む。
日本食の海外展開に詳しい下渡敏治・日本大名誉教授は「食文化や嗜好(しこう)は国、地域、人種によってバリエーションがあるし、未開拓の市場もある。食品業界でキユーピーは他企業と比べて海外進出が出遅れたが、需要の伸びしろはたくさんある。きめ細かい商品が作れる日本の強みが受け入れられている」としている。(福田涼太郎)
さまざまな料理や調理法にマッチするキユーピーマヨネーズには、成分上の効果や海外の多彩なラインアップなど、知られざる豆知識が満載だ。そのほんの一部を紹介する。
キユーピーは2016年に、マヨネーズが野菜の苦味低減に役立つとの研究結果を発表。同社製品に多く使われている卵黄が作用していることを明らかにした。昨年春には東京大と連携し、人間の舌にある味覚センサーとなる器官のうち、ピーマンの苦味に反応する部分を特定。卵黄が苦味による反応を抑制したことを科学的に実証した。
塩味が「濃い」と感じる人は多いマヨネーズだが、同社製の大さじ1杯当たりの塩分量と糖質量はそれぞれ0.3グラム、0.1グラムで、しょうゆ(2.2グラム、1.5グラム)やみそ(1.9グラム、2.6グラム)、トマトケチャップ(0.5グラム、3.8グラム)より少ない。また、マヨネーズに含まれる酢や食塩の防腐作用が強く、保存料も使われていない。
国内でもからし味や燻製(くんせい)味のマヨネーズがあるが、販売先が79の国・地域に及ぶ海外では現地の食文化や好まれる味に合わせ、多彩な製品が登場している。
フルーツサラダを食べる中国では砂糖を加えた「スイートマヨネーズ」、辛い味や日本食を好む人が多いタイではピリ辛な「シラチャーマヨネーズ」や「わさびマヨネーズ」が販売されている。マレーシアには国民的な調味料のチリソースと合わせた「チリマヨ」が人気を集めている。
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