日本企業がインドに進出を続けている。進出数は1400社と約15年で5倍に増えた。
日本企業がインドに進出を続けている。進出数は1400社と約15年で5倍に増えた。狙うのは約14億人と中国を超え人口が世界一となった巨大市場。経済安全保障の観点から脱・中国依存を進める目的もある。だが、インドの民族や文化、言語は多岐にわたり“単一市場”とみなすことはリスクでもある。地域ごとのきめ細かな戦略とともに、拙速に利益を追わない腰を据えた姿勢が求められる。
「エネルギーを中心として事業展開し、インドに貢献して事業の柱を樹立したい」。こう語るのは、大阪ガスの現地法人・大阪ガスインディアの篠原岳社長だ。
大ガスは2022年、インドの都市ガス事業に参入。市場の成長に加え、インド政府が大気汚染解消のため、排ガス中に有害物質が少ない天然ガスの利用拡大を後押ししていることも踏まえた。
需要が大きいのは自動車用で、同社は、高圧で容器につめた圧縮天然ガス(CNG)を供給するステーションをインドで約470カ所展開している。利用者からは「CNG車は燃費が良い」(三輪タクシー「リキシャ」の男性運転手)といった声が上がる。
同社は天然ガスの調達から貯蔵、パイプラインを通じた供給、販売を一貫して行う事業モデルをつくり、供給面積は約32万平方キロに達する。
これまで都市部を中心にインフラ整備を急いできたが「今後は効果的なマーケティングをおこない、都市ガスを知ってもらい利用客を増やすことに軸足を移す」と篠原氏。昨年12月末時点で年間約3.7億立方メートルだったガス販売量を、30年に約35億立方メートルまで増やすとした。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、最新の統計(22年時点)では、インドへ進出している日本企業は06年時点の267社から約5倍に増えた。業種は多岐にわたり、ガスでは静岡ガスも参入している。
インドの成長は著しく25年にも名目国内総生産(GDP)が日本を抜き世界4位になるともみられる。1人当たり国民所得は1970年代初頭の日本と同程度という。
ジェトロ・チェンナイ事務所の山下純輝シニアディレクターがインド事業の成功の秘訣(ひけつ)として挙げるのは「全体を一つの市場としてみないこと」だ。州や地域により文化も民族も言葉も違うため全国共通の製品を出しても失敗する恐れがある。
地域の需要に合った展開の成功例として山下氏が挙げるのは味の素。同社は米がよく食べられる南インドで、調味料などを販売している。
日本との価値観の違いにも配慮が必要だ。ガスの場合、インドは自動車用に比べ家庭用の需要は小さい。湯舟にお湯をためて入るなどの習慣があまりないからだ。
さらに山下氏は「インドでは日本ブランドだからといって買ってくれない。モノや値段にシビアだ」とも指摘。大ガスの篠原氏も価格競争力が重要とした上で「安全性や環境性能といった付加価値も訴えていきたい」とする。
「インドでの成功には時間がかかる」と山下氏は語る。日本企業は自社の製品やサービスの魅力の浸透へ粘り強い努力が必要となりそうだ。(山口暢彦)
成長を続けるインドには、かつての(高度経済成長期の)日本と同じく、経済が右肩上がりで、「明日は昨日より良くなる」といった明るい雰囲気がある。
そんなインドでの事業拡大の重要なポイントは国の広さだ。インドは州ごとなどに法律も文化も民族も言葉も異なり、非常に多様。全体を1つの市場として見るのは難しい部分がある。
このため、州や地域ごとにビジネスの戦略を立てるべきなのか、場合によってはインド全体を1つとしてとらえてもいいのか、考えていく必要がある。
課題は税制や税務の煩雑さのほか人件費の高騰、離職率の高さなどだ。また、東南アジアのように「日本ブランドだから買ってもらえる」という面があまり強くない。消費者はモノや値段を厳しく見る。例えばダイキン工業の空調が伸びているのは、製品そのものが評価されているからだ。
本当にいいものを提供し続け、インドの人たちに信頼されなければならない。成功には時間がかかる。10年先、20年先を見据え、継続的に改善活動をしていくことがカギになる。(聞き手 山口暢彦)
インドへ進出している日本企業は製造業が目立つ。足元では新型コロナウイルス禍などが逆風になったものの、長期的には大きく増え続けている。
インドへ早く進出したのは、自動車メーカーのスズキ。ほかの自動車大手が米国市場に注力していた1980年代、まだ注目されていなかったインドで生産を始めた。割安な小型車を展開し、インドでシェア4割を握る最大手に。現在は電気自動車(EV)の投入を進める方針も示している。
自動車以外でも、世界で空調機器の展開を進めるダイキン工業などが、インドを重要な拠点と位置付けている。
製造業については、2014年に就任したモディ首相が振興策を掲げ、外国企業にインド国内での生産を促してきた。目的は雇用の創出と貿易赤字の削減だ。
地域ごとに異なる誘致策も特徴で、モディ氏の地元、西部グジャラート州では半導体など先端産業を誘致。「南アジアのデトロイト」と呼ばれる南部タミル・ナド州のチェンナイには自動車産業が集まっている。これらにあわせ、それぞれの分野の日本企業が進出している。
また、味の素やユニ・チャームなど、より暮らしに身近な商品を多く扱う日本企業も展開している。
一方、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドの国内総生産(GDP)に占める製造業の割合は15%にとどまる。製造業拡大の目標は成し遂げられていないと評価されている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授