ゴルフダイジェスト・オンライン 大日健COO【対談連載】石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/3 ページ)

ヨーゼフ・シュンペーターが提唱する「企業家による不断のイノベーション」を挙げるまでもなく、経済発展のためには企業の永続的なビジネスイノベーションが不可欠である。本連載では、ネットイヤーグループの石黒不二代CEOが先進企業のビジネスリーダー、有識者などからビジネス革新の勘所を引き出す。

» 2009年08月17日 08時15分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

意外に珍しい業界特化のビジネスモデル

 インターネットでどう儲けるか。1990年代に試行錯誤していたわたしたちは、2000年のドットコムバブルの崩壊を経て、インターネット市場が儲けるに足る規模になったとき、やっと儲け方のイロハを知りました。

 切り口はさまざまです。例えば、インターネット全体をメディアとして扱う広告ビジネス、商品をたくさん集めることで付加価値を出す大型ショッピングモール、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のようなメディアビジネス、法人向けのマーケティングサービスなどです。今では、インターネット以前からリアルビジネスをしている各社もインターネットをマーケティングツールとして、販売チャネルとして、あるいはメディアとして利用しビジネスを拡大しています。

 しかし、これだけさまざまなビジネスモデルが存在するインターネットビジネスの中でも、カテゴリー特化のビジネスというのは意外に珍しいのではないでしょうか。ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)は、ゴルフ業界に特化して昨年実績で売上高127億円を稼ぎ出すインターネットジャイアントです。

 同社で最高執行責任者(COO)を務める大日健さんは、元シーネットネットワークスジャパンの社長で、転職にあたってはメディア+αを体験、実践できる企業風土を持っていて、世界にも発信できる可能性のあるビジネスがしたいとの思いでGDOを選んだのだそうです。一見、無謀な行動のように思えますが(笑)、お話を聞けば聞くほどそれを実現できる数少ない企業ではないかと実感しました。なぜなら、GDOは明らかに最先端のマーケティング企業だからです。

トライシクルモデルの相乗効果

ゴルフダイジェスト・オンラインの大日健COO ゴルフダイジェスト・オンラインの大日健COO

 GDOの成功の秘密は、「トライシクルモデル」にあるようです。トライ、つまり、3つの事業を1つのサイトで運営することで事業シナジーを生み出しています。3つの事業とは、ゴルフ場予約を主とするE-Booking、ゴルフ用品販売の E-Commerce、ゴルフ総合媒体としてのE-Mediaです。

 ECもメディアもインターネットであればごく基本のビジネスではないか、それを1つのサイトで運営することの相乗効果がそれほどビジネスにインパクトを与えるものなのかと、読者の方は疑問に思われるかもしれません。しかし、この一般的なビジネスで成功する会社、失敗する会社の分かれ目は、例えば、顧客基盤を共有することで営業コストを削減できているか、顧客のバリューチェーンを完結することでファンを増やせるか(一人のユーザーの方がよりたくさんのお金を落としてくれるか)という目に見えない効果の積み重ねなのです。

 それを可能にしているのは、戦略であり、マーケティングです。わたしは大日さんからお話を伺って、ゴルフというものがユーザーのStickiness(粘着性)が強いカテゴリーである、平たく言えば、GDOはゴルフを好きでたまらない人が使うサイトであるということがこの相乗効果を増している理由の1つだと思いました。

 GDOでは、Mediaで「見る聞く知る」という欲求を満たしてあげる、ECで「買う」という欲求を満たしてあげる、Bookingで実際に「やる」という欲求を満たしてあげることができる、いわば、顧客のバリューチェーンをカテゴリーの中で完結しているのです。

 大日さんによると、通常、ゴルフの予約は4週間前に行われるそうです。通常の購買に比べれば、購買の決断と利用というアクションに相当な時間差があります。ゴルフコースに出る数週間前にメンバーが決まるので、その間、どういう天気になるのだろうと考え、服を買ったり、道具をそろえたりする人もいます。さらに、当日のプレイを終えると、反省してパターを買ってみたり、写真を共有したりします。

 マーケティングの理屈からすると、認知・興味=>情報検索=>比較・検討=>行動というすべてのタッチポイントに何らかの製品やサービスを提供できることで、GDOは成立しているのです。GDOの競合は、楽天GORAやほかのECサイトなどさまざまですが、ユーザーの、見る聞く知る、買う、やる、という欲求のすべてを満たしてくれるのは、GDO以外にありません。この強みをいかに統合できるかどうかが、GDOの軌跡を支え、今後の成長を左右していくのです。

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