数回にわたり検討してきたテーマに対する課題の抽出と分析、解決策の立案、課題と解決策の関係付けという一連の作業は終盤を迎えていた。川口は、4人に対してこれまで検討した結果を提言としてまとめるよう命じた。
内山悟志の「IT人材育成物語」 前回までのあらすじ
経営企画部からの2人が加わり、前回の勉強会で課題と解決策の関係付けができたことで、初回から続けてきた「なぜ、ITが十分に事業に貢献できていないのか」というテーマに対して、結論らしきものが見え始めていた。
確かにKJ法やブレインライティング法などの問題解決手法を4人に体験させ、知識として習得させることはできただろう。しかし川口は、当初からこの勉強会を単なる学習の場とするだけではなく、実際に実行できる改善策が浮かび上がってきたら、それを部門運営や業務に生かすよう提案したいと考えていた。
そこで、川口はこれまで検討した結果を提言という形でまとめ、情報システム部門の秦野部長にプレゼンテーションすることにした。そろそろ勉強会の経過を秦野に報告しなければならないと思っていたこともあり、せっかく報告するのであれば単に経過や学んだ手法を紹介するだけでなく、検討結果を披露した方が、インパクトがあるに違いないと思った。
いつものように集まった4人に対して川口は「これまで、課題の抽出と分析、解決策の立案、課題と解決策の関係付けを行ってきて、いくつか有効と思われる解決策や改善策が上がり、結論に近付いてきた。この内容をプレゼンテーションにまとめて、秦野部長に提案しようじゃないか。せっかくの機会だから、阿部と浅賀の上司である経営企画部の吉田部長にも聞いてもらうことにしよう」と告げた。
「プレゼンテーションの作成というのは、あまりやったことがないのですが…」と浅賀が少し不安な表情を浮かべながらつぶやいた。
「プレゼンテーションのシナリオの組み立て方や資料の作成については適宜説明するし、実際に自分たちで検討した内容をまとめるのだから、それほど難しいことではないだろう。それに、両部長に対するプレゼンテーションも君たちにやってもらうわけだから、説明しやすいプレゼン資料を作らないとやりにくいだろう」という川口の返答に、「えっ、プレゼンテーションも僕たちがやるのですか。川口さんがやってくれるのではないのですか」と浅賀があわてて切り返した。
「もちろんだ。プレゼンテーションそのものも、その進め方も勉強会の成果なのだから、それを部長たちに見てもらいたいからね」と川口は念を押すように付け加えた。そして、プレゼンテーションの作成手順について説明を続けた。
「まずは、プレゼンテーションの構成を組み立てなければならない。プレゼンテーションには、いくつかの基本シナリオがある」と言いながら2枚つづりの資料を配った(図1)。今回のような、課題に対する解決策を提言する場合は、まさに中央にある「課題解決型」の基本シナリオがうってつけである。
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明治学院大学 経済学部准教授