トイレットペーパー、ラップと次々に品物を無料で渡すのだが、1品ごとに30分ほどの説明が入る。商品の説明はわずかで、ほとんどは世間話を面白おかしく話している。とにかく笑わせてくれる中年男のなまりのある話術に、その場にいた全員が完全にはまってしまっている。
「家にトイレのある人?」という質問に、老婦人たちは大笑いしながら手を挙げて「ハイ、ハイ」。「このトイレットペーパーを使ってみたい人?」、「ハイ、ハイ」、「そのお母さんの声が一番大きいから1個多くあげる」といった具合に、あちこちで「ハイ、ハイ」との大声。雰囲気から筆者も手を挙げざるを得ない。まさに「ハイハイ商法」である。テンプラ揚げ鍋とこし網のセットや包丁など、いかにも値のかさみそうな品物は盛んに説明するがなかなか配らない。
しばらくすると小さないすが用意され、座るように促される。全員座ると中年男の説明にはますます熱が入る。とにかく話が面白い。気が付くと入り口が紅白の幕で仕切られて、外界から閉ざされている。密室の状態だ。中の人間に一体感が生まれるには十分な雰囲気だ。そう言えば、最初の段階で1人がスッと会場から出て行ったとき、中年男はすかさずこう言ったのだ。
「あの人は昨日もここに来て、ただでたくさんもらって帰った人だ。僕と目が合ってバツが悪くて出て行った」(後で判明するが、昨日は開催されていない)
しばらくしてさらに1人が抜けた。中年男は「ああいう落ち着きのない人は、相手にしない。残った人は選ばれた人だ」と言った。否が応でも仲間意識が醸成されつつあった。
靴の下敷きが取り出された。「ひざの痛い人?」、「ハイ、ハイ」、「腰の痛い人?」、「ハイ、ハイ」、「肩の痛い人?」、「ハイ、ハイ」。皆、品物がほしいから元気に返事をする。
「この商品を敷くと痛みが取れます、1枚1029円なんて安いでしょう」
「安いねえ」
「洗えば何度でも使えます」「お得ですよ」
「ほしい人?」
「ハイ、ハイ」
「よし、今日は特別500円にしておくよ」「安過ぎるよ」
気が付くと、説明をする中年男の両側に若者が2人ついて、絶妙な相づちを打ちながら、中年男をサポートしている。彼らは明らかに訓練されているのだ。全員が競うように下敷きを受け取る。すべて行き渡ると「内緒で今日はお金はいりません」「無料ですよ」と語り大きな拍手が出る。
「本当に内緒ですよ。お金を受け取らないと法律違反になるから」「絶対内緒ね」。老婦人たちはかなり得した気分になって大満足の様子だ。彼女らはあたかも同志であるかのような感覚になってきたようだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授