「リアル店舗での販売とインターネットビジネスは別のもの」「うちの会社はITを使うような先端企業ではない」などと言っていると、時代の流れに置いて行かれてしまいます。
日本でもiPadが5月28日に発売されました。iPadは、新しいIT時代の幕開けを象徴する端末として世間を騒がせていますが、経営者の多くはまだまだ自分の会社には関係ないものと感じているようです。
「リアル店舗での販売とインターネットビジネスは別のもの」「うちの会社はITを使うような先端企業ではない」といった意見もよく耳にします。最初にはっきり申しあげますが、ITと無関係でいられる企業など、この現代には存在しません。今回は、皆さんのWebに対する誤った見方についてお話します。
インターネットのビジネスを実際に見てみましょう。日本最大のインターネットショッピングモール「楽天市場」をのぞいてみると、服飾、靴、装飾品といったファッション系の商品から、ケーキなどのお菓子、ガーデニング用品、インテリア用品、なんと自動車まで扱っています。出店リストを見ても、リアルなショッピングモールに見劣りしないほどジャンルが豊富で、リアルを超えるたくさんの商品が売られています。出店数は圧倒的です。
楽天のショッピングモールの出店数は3万3086店舗(2010年度第1四半期<1Q>時点)で、店舗数の伸びは加速しています。ショッピングモールでの実際の購買者は、2010年1Qで860万人、1人当たりの購入総額は2万4291円にまで達しています。実際に860万人もの消費者がショッピングモールを訪れ、買い物をしている場面を想像すると、とんでもなく大きなモールであることがお分かりになるでしょう。しかし、これはあくまで楽天という一企業のショッピングモールのお話です。(出所:楽天2010年度第1四半期決算説明会資料)
インターネットが登場する以前の広告媒体の花形は、マスコミ4媒体と呼ぶテレビ・新聞・雑誌・ラジオでした。その時代は、いかに広告が消費者の購買意欲を刺激し、店に出向くまで購買意欲を継続させ、購買させるかが勝負でした。そのため、多くの費用は、露出が多く刺激的な広告活動につぎこまれました。一方で、広帯域のネットワークが普及し、PCが低価格化すると、インターネットが急速に一般にも普及しました。
インターネット時代になると、企業は自社のWebサイトを立ち上げました。しかし、次第にインターネットの世界を支配し始めたのは、Googleのような検索サービスを提供する企業でした。わたしたちは、興味があったり分からなかったりすることがあると、気軽に検索サイトを利用します。今では一般的な行動です。
検索するということは何かの興味、関心があるということです。Googleは、そこに目を付け、検索したキーワードに広告をつけるビジネスを考え出しました。消費者が何らかの興味・関心のあるキーワードを検索した際に、そのキーワードに関連する企業サイトに消費者を誘導したり、購買させたりするというプロセスがGoogleのビジネスモデルの要です。リアルな購買のように広告の内容を記憶したり、店舗に足を運んだりといった必要がありません。商品を見た消費者をすぐに購買行動に導けるのがインターネット購買の魔力です。
インターネットでのビジネスは検索が鍵を握ります。言い換えれば、ユーザーの自発的な興味にかんする情報を活用してビジネスを行うことになります。かつてのテレビコマーシャルに代表されるマスコミ4媒体広告は、一方的に広告主側が情報を投げる形でした。露出の多いメディアや時間帯、刺激的な広告を提供するためには、膨大な費用が必要でした。しかし検索キーワードから引っ掛ける場合、自社のサービスを提供するユーザーがどんなキーワードを検索するのか、また、企業のWebサイトまで誘導した後、どうすれば興味を拡張し、購買につなげられるかを戦略的に考えなければなりません。
インターネットでのもう1つの利点は、顧客がどこから来たのか、Webサイト内のどこを見たのか、結果、購買したのかといった情報がデータとして取れるところです。インターネット時代の広告の世界では、目に見えないものにお金を払うという考え方はありません。データを活用し、改善を繰り返し企業の強みにしていくのです。
Amazonは、消費者が検索したキーワードをさらに分析し、過去の購買履歴などの情報と併せ、欲しいと思われる商品を自動的に勧めるサービスを提供し、成果を出しています。これは、消費者自身は気づいていないものの、潜在的に購買欲求を持つ商品の購買を喚起する仕組みです。信頼性が高く、簡単な決済システムを提供することによって、興味が薄れないうちに購買させる仕組みを持っています。
これによって、リアルな店舗では陳列スペースの関係で目に入ることのなかった商品が売れるようになりました。これが、俗に言うロングテールです。インターネットの世界は消費者の自主的な行動に支えられており、徹底的な消費者の理解がなければ何も始まらないフェアな世界なのです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授