医療機関や企業などが一つ屋根の下で再生医療の産業化を目指す未来医療国際拠点「Nakanoshima Qross」が始動した。
医療機関や企業などが一つ屋根の下で再生医療の産業化を目指す未来医療国際拠点「Nakanoshima Qross」(中之島クロス、大阪市北区)が始動した。「医療・健康」は2025年大阪・関西万博で出展の柱となる分野の一つ。市場ニーズを踏まえた研究開発からサービスの提供、人材育成までワンストップで行う。
中之島クロスは6月29日、かつて大阪大医学部中之島キャンパスがあったエリアに開業した。今月9日には浜地雅一(まさかず)厚生労働副大臣が現地を視察。運営する一般財団法人「未来医療推進機構」の澤芳樹理事長(大阪大特任教授)が案内した。
浜地氏は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の心筋細胞をもとに澤氏が開発した膜状の心筋シートを見ながら再生医療技術の説明を受けたほか、診療所や研究施設なども回った。
政府は6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」に、iPS細胞を活用した創薬や再生医療の研究開発と、同分野の産業振興拠点の整備を推進すると明記している。視察の目的は中之島クロスの設備や態勢を確認することだった。
再生医療ではiPS細胞などを使い、病気やけがで機能不全となった生体組織を復元する。難病治療や薬の開発に役立つことが期待されている。
iPS細胞の課題は製造コストだ。中之島クロスに入る京都大iPS細胞研究財団(山中伸弥理事長)は「my(マイ) iPSプロジェクト」を立ち上げ、自動培養装置で患者由来の治療用iPS細胞を大量製造。医療機関や企業に安価に提供し、安全性確保とコスト削減の両立を目指す。
中之島クロスのうち「未来医療R&Dセンター」では、スタートアップ(新興企業)を含む医療・製薬関連の企業を中心に研究開発を進める。またJR大阪駅近くから今秋移転する予定の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)関西支部が、再生医療製品などに関する相談受け付けや承認審査を担う。
一方、循環器疾患専門病院のほか整形外科や歯科の診療所などが集積した「未来医療MEDセンター」は、最先端治療を実践する場となる。
浜地氏は取材に「医療機関や研究施設の単なる集積地でないことは分かった。医療や創薬のイノベーション(技術革新)を起こす拠点となれるか注目している」と話し、澤氏は「中之島クロスで時代の先を見据えて開発した未来医療が世界の常識になることを目指す」と意気込んだ。
ライフサイエンス分野での国内最大級の産業集積地に「神戸医療産業都市」(KBIC)がある。神戸市が平成10年から神戸港の人工島・ポートアイランドに整備。360超の企業・団体が進出し、先端医療技術の研究開発者ら約1万2700人を擁する一大拠点に成長した。市は2025年大阪・関西万博を見据え、情報や人材の玄関口とする青写真を描く。
KBICには理化学研究所(本部・埼玉県)の生命機能科学研究センターのほか、再生医療や創薬などの研究開発を手掛ける企業、高度医療を提供する病院が集まる。
市によると、強みの一つは、蓄積された知見やノウハウ。世界初のiPS細胞由来の網膜シート移植手術はその一例に過ぎない。病院が集まり、新たな治療法を安全かつ効率的に開発する「実証の場が多くある」(市担当者)ことも利点という。
市の有識者検討会がKBICの将来像をまとめるにあたり、重視しているのが神戸空港の存在だ。令和7年4月の万博開幕をにらみ、来春に発着枠を1.5倍に引き上げることで関係者が合意した。
検討会は、12年前後とされる神戸空港での国際定期便の運用開始を踏まえ、KBICをライフサイエンス分野の情報や人材のゲートウェイとして発展させる方針。市の担当者は神戸空港の発着枠拡大を「国内の他都市とのつながりが強まり、医療産業都市の活性化に資する」と歓迎した。
国内では大阪や神戸のほか東京、神奈川などにライフサイエンスの産業集積地がある。複数の研究機関や企業が共存共栄を図る仕組みは「エコシステム」と呼ばれるが、日本の集積地には国際市場で生き残る競争力が求められる。
未来医療推進機構の澤芳樹理事長によると、国内の先端医療分野は、研究開発から製品化までの支援態勢は整っているものの、市場競争を勝ち抜き、産業化するための資金調達や人材育成の点で出遅れている。
米ボストンやサンフランシスコ(シリコンバレー)、英ロンドンなどには研究機関やグローバル製薬会社、大学発ベンチャーの大規模集積エリアがある。ベンチャー育成拠点を備え、財団や投資会社などが支援して産業化を推進するエコシステムが確立している。中之島クロスではこうした先進都市の知見を取り入れる方針だ。
内閣官房の創薬に関する会議でメンバーを務める牧兼充(かねたか)・早稲田大ビジネススクール准教授(イノベーション)は「日本には優れた企業や研究実績があるにもかかわらず、プレーヤーが効果的に協業できていない」と指摘する。
エコシステムの形成を促す支援を国が強化すべきだとした上で「日本の再生医療に対する海外の関心度は高い。中之島クロスのような施設は、プレーヤーが交流し、これまでにないエコシステムとして機能することが期待される」と話した。(山本考志、香西広豊、清宮真一)
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