「真のマーケッティングは、顧客からスタートする」「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足」はどこへ行ってしまったのか。しかし顧客無視は、企業だけではない。
先ごろ、また悲しい事件が起きた。「いじめ」による(と見られる)小学6年生女児の自殺だ。心が痛む。亡くなった本人がどれほど悩み抜いたか、親族はどれほど悲しい思いをしているかと思うと、胸が張り裂けそうだ。しかし学校の対応は、関係者を納得させられず、世間を失望させるものだ。児童もその家族も、学校にとって重要な「顧客」のはずなのに。
近年、供給する側の都合を顧客に押し付けるケースに余りにも多く遭遇する。「真のマーケッティングは、(中略)顧客からスタートする」「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足」は(P.F.ドラッカー「マネジメント」、ダイヤモンド社)、どこへ行ってしまったのか。しかし顧客無視は、企業だけではない。
冒頭例のように児童や生徒の生き方や学力向上の指導を忘れた学校、見た目のサービスばかりに力を入れて、真の住民サービスを忘れた行政機関、表面の取り繕いにエネルギーを費やし、膨大な数の患者をさばくことにばかり気が行って、患者の心を忘れた病院、・・・身の周りに顧客を忘れた例を、数え切れないほど見かける。さぞかしドラッカーが嘆くだろうが、それだけでなく、社会に歪みが出てきて、やがて地盤が陥没しかねない。
顧客が求める満足感に無頓着で、一方的に「われわれの製品やサービスにできることはこれである」(P.F.ドラッカー 上掲書)ことに執着する実態を、いくつか分析してみよう。
10月23日 群馬県桐生市市立小学校6年の女児が、市内の自宅で自殺した(以下は、朝日・読売・毎日新聞朝夕刊記事より)。女児の父親は、いじめによる自殺で、6年生になってから学校に10回以上相談したが、具体的解決策は示されなかったと主張した。
学校の対応はお粗末だ。児童や保護者をいわゆる顧客と全く思っていない節がある。当初校長は、「人間関係に問題はあったが、いじめとまでは認識していなかった」と言い、保護者会でのいじめの有無についての質問に、「プライバシーの問題」「詳細までは把握できていない」と理屈に合わない言い訳を繰り返した。
しかし、見逃そうと思っても見逃せない、いじめや女児の悩みの兆候はいくつもあった。1.女児は9月迄には8月1回欠席しただけだったが、10月に入って急に休みがちになり、腹痛を訴えて5回欠席した。2.給食のとき、孤立していた。3.6年生男児数人が、「“あっちへ行け”と言われて泣いているところを見た」「しょっちゅういじめられていた」と後日話しているというが、「数人が」「しょっちゅう」目撃していたのに、教師の耳目に入らなかったのか。4.校長は「5年生の時に、同級生とのやり取りで誤解があったが、女児の保護者に話して誤解は解けた。その後も見ている限りは、いじめを把握していない」としているが、一方で前掲のように「人間関係に問題はあったが」と言っているからには、起きている現象を総合的に判断すれば兆候の一つと認識できたはずだ。5.女児が亡くなる前日、保護者側が「真剣に学級の立て直しに動くべきだ」と校長らに訴えていた。かねてから女児のクラスの学級崩壊がひどかったのに、保護者の訴えが生かしきれていない。これほどいくつも見られた兆候を無視した学校の状況把握の甘さは、罪が重い。
やっと11月2日の保護者会で、学校は「女児が置かれていた状況を把握できていなかった」と謝罪した。そして11月8日、市教育委員会は、学校がまとめた「いじめはあったが、自殺は予測できず、原因は特定できなかった」との調査結果を発表し、それまで把握していないとしていた「いじめ」を認めた。この報告に対し、文科省が「学校側が時系列でどう対応したかほとんどわからない」と調査報告を不充分とし、再調査追加報告を指示したのがせめてもの救いだ。
しかし、校長が記者会見で、自殺について「学校生活の中で、死を感じさせる様子や言葉はなかった」と釈明しているが、以上にも触れたような状況下で、事ここに到ってなお責任回避する姿勢は、醜いし、自殺した女児や遺族、問題究明を期待する世論に対して不誠実で、その考え方や姿勢は放置できることではない。
児童生徒の自殺を巡っては、背景にいじめがあったと訴える遺族と、いじめの存在は確認できないと主張する学校側と対立するケースが多いと言われる。それにしても、最初からいじめを否定した誠意のなさや、文科省に差し戻された報告書などは、大問題だ。学校は、児童や保護者を顧客と思っていないからだ。事件発生後1カ月近く経って、11月17日やっと第三者委員会を設置することになったらしいが、外部専門家の知恵を借り、事実関係を徹底究明し、関係者と情報を共有し、何が問題だったか、課題は何かなどを真摯に反省・分析し、関係者に丁寧に説明をするところから、信頼を得て、今後の再発防止になる。
そんなことは、企業では普通に行われる。学校を変えなければならない。「あらゆるレベルの学校が抜本的な改革を必要としている。」「必要なことは、・・・・・・学校をマネジメントされた機能する教育機関とすることである。」(P.F.ドラッカー 上掲書)
次は、病院の例だ。顧客である患者に対する病院の姿勢について、一般的に改善努力の傾向は見られるが、「良い」「普通」「悪い」に分類したとき、筆者の経験や耳にする噂などから判断して、それぞれが10%、30%、60%の構成か。「悪い」が、多すぎる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授