食文化にみるダイバーシティエーゲ海から風のたより(1/2 ページ)

かつて世界の中心だったトルコは、支配するだけではなく、外国人の登用、言語、宗教の自由など国家戦略としてダイバーシティ・マネジメントを実践していた。グローバル人材育成が課題といわれている日本が学ぶべきことは多いのでは。

» 2010年12月17日 09時48分 公開
[永井 裕久,ITmedia]

 海外生活の重要な要素の1つは、何と言っても食事だろう。トルコ料理は「世界の三大料理」と称されるように、その食材の豊富さと料理のバラエティには実に驚かされる。トルコを旅したことのある人ならば、数十種類におよぶメゼ(前菜)、東京の街角でも最近よく見かけるようになったドネルケバブ(ドラム状に串刺しにした肉を回しながら焼き、削ぎ落とすバーベキュー)、キョフテ(肉団子)のような異国情緒たっぷりの食事を堪能されたことだろう。国内食料自給率が100%を超え、新鮮かつ豊富な食材が調達できるトルコ料理は、基本的にナチュラルフード、スローフードである。

 イズミルでもパザール(Pazar)という青空市場が開かれるが、山のように積み上げられた採れたての新鮮で豊富な野菜や果実からは、大地の息吹と生命力が感じられる。イズミルにもマクドナルド、KFC、スターバックスといった若者に人気の米国系ファストフードチェーンの店舗もあるが、やはり、新鮮な食材を手間暇かけて調理したトルコの伝統料理に勝るものはない。

「パザールに並べられた多種類のオリーブ」(写真撮影:Mehmet DULGER)

 レストランで供される料理以外にも市中の屋台やロカンタ(小食堂)が提供するシミット(ゴマをまぶしたリング状のパン)、ボレキやギョズレメ(チーズやホウレンソウの入ったパイやクレープ)、ピデ(トルコ風ビザ)、クムピル(トルコ風焼きじゃが)といった庶民的なファストフードがふんだんにあり、これが安価で美味である。

エーゲ海と海の幸

 一般的に、トルコ料理には魚料理は少ないようであるが、イズミルはエーゲ海沿岸という地(海?)の利を得て、豊富な魚介類を入手することができる。魚好きのわたしにとっては大変ありがたい。大きなスーパーマーケットに行くと、地元の代表的なスズキやタイ、イワシに加え、サバ、アジ、カツオ、エビ、タコ、イカといった日本と変わらない魚にお目にかかることができる。珍しいところではうなぎやアンコウも並んでいる。

「鯛の一種チュプラ」(写真撮影:Mehmet DULGER)

 わたしの研究テーマの1つである異文化適応の国際比較では、日本人海外派遣者の生活への満足度は、オセアニアや北米西海岸、アジアの沿岸国といった海に面した地域で高い。この理由としては、もちろん、経済インフラや現地の生活習慣の影響は大きいが、四面を海に囲まれた国に育った日本人にとって、海の景色があり、新鮮な魚介類が入手できる沿岸地域における食生活への満足度の高さといった背景も影響しているのではないだろうかと思う。

 美食につきものはアルコールであるが、エーゲ海地方では、遺跡で有名なエフェソスにちなんだ銘柄の地元ビールが定番であるし、各地で良質の地ワインを醸造している。また、口当たりは甘く、水を入れると白濁するラク(「ライオンのミルク」という意味)という強いスピリッツもある。このように、おいしいトルコ料理には、それに見合う豊富な酒類がそろっている。そして会食の席では、宴もたけなわになると、弦楽器と太鼓の調べに合わせて、エーゲ海地方の民俗ダンスが始まる。

 トルコ人は、リズミカルなトルコの民俗音楽を聴くと、自然と体が踊りだすらしい。わたしも宴会に招待された時に、一緒になって踊ったことがあるが、老若男女が入れ替わり立ち替わり、それぞれ自慢のスタイルで自己表現する姿はとても情緒や人情味があり楽しい。トルコは政教分離の国是にもとづく、れっきとしたイスラーム国であるが、食と酒のある生活を楽しむことと、宗教的な規範のバランスを保っているように思われる。この辺りが、トルコの懐の深さでもあるのだろう。

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