「マレーシアの魅力のうちの1つは、複数の民族、宗教、言語が入り混じる中、こうした多様性(ダイバーシティ)を尊重し合っている点にある」と、河内氏は指摘する。そして、これは、組織マネジメントにおいても、取り入れていかなければならない。資生堂マレーシアでは、かつて事務所に仏壇を置いていたこともあったそうだが、それを排除した。また、社内のイベントから宗教色を一切排除する一方で、それぞれの宗教や民族にとって重要な祝祭日はそれぞれ休みをとり、互いの文化や慣習を尊重し合うことに徹したそうだ。取り組みはこれにとどまらない。
河内氏は、自身の社長室も含め、部屋をすべてガラス張りにし、社員から見えない密室を廃した。常に透明化を心がけ、公正・公平でクリーンなイメージをフロアデザインからも築いていった。とかく、人間というのは、見えない部屋や空間があると、そこにあらぬ疑念を抱いたりするものである。まして、民族、宗教、言語等が異なれば、それが誤解を生じさせることもある。
これを排除し、互いに信頼し合える雰囲気を作り上げたのである。こうした取り組みは、先述の取り組みと合せて、社内にマレーシアの魅力、すなわち多様性(ダイバーシティ)を尊重し合うという文化を取り込むことができた。「もともと、多様性(ダイバーシティ)を認め合うことに慣れている国民であり、理解は得やすかった」と河内氏は語ったが、このような取り組みは、組織のトップ自らが進んで実行しない限り、なかなか浸透するものではない。この点は、多いに参考になるだろう。
マーケットの観点、すなわち化粧品という商品をマレーシアの市場で販売していくという点においても、多様性(ダイバーシティ)を抜きに語ることはできないようである。河内氏によると、例えば、中国では、多くの人々が日本人と肌の色も近く、顔・形も似ているため、日本の商品をそのまま持ち込んだとしても受け入れられるが、マレーシアは、日本人の肌の色とは異なるマレー系やインド系の人々が多く、それらの人々に合ったものを提供しなければならない。
カウンセリング販売を中心に商品を提供してきた資生堂においては、これは重要な点であろう。カウンセリング販売で、その人の肌の色や顔立ちに合い、その人が最も美しく見える商品を勧めることを考えると、こうした違いは、市場アプローチにも大きな影響を与えることが考えられる。
一方で、最近、一部の都会的なマレーシアやインドネシアの若い女性の間では、肌の黒い女性も白いファンデーションを塗ることがあるそうだ。華僑の勢力が強く、中華系のファッション雑誌(コスメティック商品の掲載)も数多く市場に出回っているなどの影響もあり、マレーシアでは“色が白い”=“きれい”という感覚が広く伝わっているようである。
わたしもマレーシアの街中で、明らかに自分の肌の色よりも顔を白く塗っている女性を何人か見かけた。きれいになりたい、美しくなりたいと思っている肌の黒い女性たちがホワイトニングに興味を持ち始めたことが伺えるが、言うまでもなく、ホワイトニング=きれい、ホワイトニング=美しいというわけではない。
現在のこうした流行はさておき、「その人に合った、その人が最もきれいに見える商品を提供することが大事であり、今後は、マレーシアの女性それぞれの美しさを引き出す、ベストマッチの商品提供を目指したい」と河内氏は語ってくれた。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授