失敗から学ぶ。津波の経験は原発建設に生かされていたのだろうか『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦(2/2 ページ)

» 2011年05月13日 07時00分 公開
[古川裕倫,ITmedia]
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『坂の上の雲』203高地の失敗に学ぶ

 さて、『坂の上の雲』。日露戦争では、日本海軍が日本海海戦でロシア海軍を撃破したが、その前に大失敗をしていた。

 ロシアには、太平洋艦隊とヨーロッパで編成されたバルチック艦隊の2つがあったが、日本にはロシア太平洋艦隊に匹敵する艦隊が1つしかなかった。量的戦略を得意とするロシアは、遠くヨーロッパからやってくるバルチック艦隊の到着を待って、日本海軍と戦おうとする。その戦力を温存しようと、ロシア太平洋艦隊は鉄壁の要塞に囲まれた旅順港に逃げ込んでしまって、出てこない。

 遠くからの艦砲射撃では、山の向こうの艦隊に砲弾が当たらない。ぐずぐずしているとバルチック艦隊が到着して、挟み撃ちに合う。そこで、旅順港を一望できる203高地を日本陸軍が占領しようとしたのだが、そこにはロシア陸軍の分厚いコンクリート製のトーチカが立ちはだかっていた。

 その攻撃に手を焼いていたのは、野木典乃率いる陸軍第3軍であった。大本営から繰り返し作戦の変更を指示されていたにもかかわらず、同じ突撃作成を繰り返し、多くの死傷者を出していた。それに業を煮やした満州軍総参謀児玉源太郎が乗り込んでいった。

 同じ作戦しか繰り返えさない乃木の参謀を児玉が叱咤する。その参謀は、設置に時間がかかりすぎるといって28センチ巨砲の導入を断り、前線から遠く離れた場所に参謀本部を置いていたのだが、これを児玉がとがめた。

「諸君は昨日の専門家であるかも知れん。しかし明日の専門家ではない」

(「坂之上の雲」、司馬遼太郎、文春文庫、5巻99頁)


 失敗の原因の1つに固定概念があるが、これはそのいい例である。知識があると思い込んでいる人間のおごり・高ぶりでもある。日本の原発は「絶対安全」と言い切って、議論もしてこなかった、そういうおごり・高ぶりがあったのではないか。

 素直に失敗から学ぶことである。

ビジネスの失敗を不成約報告として残そう

 新しいビジネスや大型契約ができると、社内で成約報告の書類が回る。実現した担当者にとっても、報告を受ける上司にとっても嬉しいことである。だが、成約すれば、契約書や経理関連書類なども作成することになり、成約報告書作成に必要以上の時間を掛けなくても、上司や関係者の知るところとなる。

 むしろ、成約に至らなかった失敗の原因を検討し、関係者で共有したり、ファイルに残したりすることが大事ではないだろうか。

 提示価格、納期、支払条件、市況、売り先の事情、自分たちのプレゼンの出来などのうち、どれかが合致しなかったからこそ成約に至らなかったのである。それを「不成約報告」として記録に残しておくことで、次回につなげることができる。こちらこそ大事にすべき報告書である。

 売り込みなどは、1回で成功することなどほとんどない。まさに、失敗から始まるのである。

 誰しも成功を語りたがるが、失敗をちゃんと語れる環境を職場で作っておきたい。失敗した人を責めるのではなく、事を責めること。失敗から学ぶということを当たり前のこととして共有しておくことである。

著者プロフィール

古川裕倫

株式会社多久案代表、日本駐車場開発株式会社 社外取締役

1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1977年三井物産入社(エネルギー本部、情報産業本部、業務本部投資総括室)。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間勤務。2000年株式会社ホリプロ入社、取締役執

行役員。2007年株式会社リンクステーション副社長。「先人・先輩の教えを後世に順送りする」ことを信条とし、無料勉強会「世田谷ビジネス塾」を開催している。書著に「他社から引き抜かれる社員になれ」(ファーストプレス)、「バカ上司その傾向と対策」(集英社新書)、「女性が職場で損する理由」(扶桑社新書)、

「仕事の大切なことは『坂の上の雲』が教えてくれた」(三笠書房)、「あたりまえだけどなかなかできない

51歳からのルール」(明日香出版)、「課長のノート」(かんき出版)、他多数。古川ひろのりの公式ウエブサイト。


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