身分制度や鎖国という足かせが一挙に取り払われた、そんな新しい時代を生きる青年たちの熱い想いに注目したい。
わが国は、近代に至るまでに主に中国や朝鮮半島から言葉、宗教、政治、経済などを学んで日本固有の文化に多くを取り入れてきた。これらは日本文化醸成に大きな貢献を果たしてきたが、世界の先進国に並ぶであるとか、日本が政治や経済で世界に影響を与えるところまではいっていない。
しかし、明治時代の学びは、世界レベルまで日本を持ち上げる勢いであり、わが国にとって本格的なグローバリゼーションの第1期であったといえる。
政府は、殖産興業・富国強兵を掲げ、欧米列強に負けない国づくりを目指した。その施策の1つとして、海外に派遣団や留学生を送り、海外からの専門家を多く導入した。
前回、秋山真之の勉強法を説明したが、このように多くの人材が海外各地に学んだ。「坂の上の雲」の登場人物の留学歴を見てみよう。
幕末から明治にかけての留学生の多くは、武士やその子女であった。当時は、船の安全性も今に比較して乏しく、大変なリスクと苦労を覚悟しての留学である。
福沢諭吉は、「学問のすすめ」や「福翁自伝」に、「天は人に上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」という平等思想のほかに、「個人の独立なくして国家の独立なし」という強い国家意識を書いている。儒教などの過去の学問だけに捕らわれず、西洋の学問を推奨しているが、要点は国家の独立であり、わが国のよいところは大切にして、取り入れるべきは取り入れよと指摘している。
「坂の上の雲」ではこういう場面がある。
つまりは、運用じゃ。英国の軍艦を買い、ドイツの大砲を買おうとも、その運用が日本人の手でおこなわれ、その運用によって勝てば、その勝利はぜんぶ日本人のものじゃ。
(司馬遼太郎、坂之上の雲、文春文庫、2巻319頁)
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明治学院大学 経済学部准教授