阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた神戸・ポートアイランド。その人工島で学ぶ大学生たちが東北の被災地支援に向けて懸命に取り組む現場を取材した。
日本国民を恐怖と悲しみ、そして失意のどん底に突き落とした東日本大震災から3カ月が過ぎた。マグニチュード(M)9.0の大地震と、それに伴う大津波は、そこで暮らしていた人々のあらゆる生活基盤、数々の思い出、そして命までをも一瞬にして奪い去った。
残された者も辛い。捜索活動によって家屋の残骸や所持品が見つかったとしても現実を直視できずにいる人たち、いまだ家族や友人の死を受け入れられず、やり場のない怒りと悔しさで肩を震わせる人たちなど、被災者の多くが満たされない気持ちを抱いて避難所生活を続けている。
「未来に向かって復興しなければいけない。日本は立ち直らなくてはならない」――。そんな思いを胸に、多くのボランティアが被災地に入った。内閣府のまとめによると、岩手、宮城、福島3県の災害ボランティアセンター(VC)に登録して活動したボランティアの総数は、震災当日から約3カ月間でのべ38万7900人を記録した。ただし、この数字は1995年1月の阪神・淡路大震災と比べると3分の1程度だという。
もちろん、現地に赴いて活動することだけがボランティアではない。遠隔地から支援物資を手配したり、電話やインターネットなどを通じて被災者のメンタルケアをしたりと、今なお各地でさまざまな取り組みがなされている。
「被災者の方々の人生が詰まった大切な思い出、何とかして蘇らせたい」――。神戸の港に浮かぶ人工島、ポートアイランドに校舎を構える神戸学院大学の一室で、有志で集まった学生や市民が、被災によって泥水にまみれ、破れた写真を修復しようと休む間もなく作業に当たっている。
このプロジェクトの名は「あなたの思い出まもり隊」。被災地から届けられた写真をデジタル加工技術などによって元通りに綺麗にして、依頼者へ送り返してあげるという取り組みだ。このプロジェクトは神戸学院大学の舩木伸江准教授の呼び掛けで立ち上がった。
神戸学院大学では、元々防災に関する教育が充実しており、防災や社会貢献に役立つ人材を育成するための「防災・社会貢献ユニット」というプログラムを持つなどしている。また、文部科学省の「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」(平成21年度)にも参画しており、宮城の東北福祉大学、東京の工学院大学と連携して、防災やボランティアに関する実践教育に力を入れている(TKK3大学連携プロジェクト)。
そうした過程において2011年3月5日に発足したのが、社会貢献学会である。同学会では、社会貢献、防災・減災、ボランティア、福祉、環境などの専門知識を身に付けた社会貢献活動支援士の資格認定を行うとともに、災害発生時はもちろんのこと、平時においても防災などの知識やスキル、ネットワークを生かせるための環境づくりを目指す。
運命のいたずらか、東日本大震災は、学会設立からわずか1週間後に発生。今回の大震災で東北福祉大学自身も被災した。幸いにも、3月11日の深夜には、東北福祉大学と連絡がつながる。安否確認をするとともに、ビデオ会議を実施して、連携大学として何をすべきかを検討した。
一方で、震災直後から現地でボランティア活動をしたいという学生が殺到。先遣隊で安全確認や活動内容を確認したうえで、大学側はバスを手配し、教職員や学生を被災地に送り込んだ。ただし、バスを出せるのは不定期で、乗車できる人数も限られる。それでもボランティアをしたいという学生は後を絶たない。そこで、舩木氏は「被災地に行かずともできることは何か」を考え、プロジェクトの発案につながった。
被災地で苦しむ人たちの心を少しでも和らげるものは何か。それは思い出の詰まった写真だ。津波によってボロボロになってしまった写真を復元することで、少しでも被災者を支援できればと考えた。
このプロジェクトに賛同する“仲間”も集まった。協賛企業として、セイコーエプソンがスキャナーを、日本ヒューレット・パッカードがデスクトップPCを、アドビ システムズが写真のデジタル編集ソフトウェア「Photoshop」を、ニコン、リコー、ナカバヤシが製品やサービスを無償提供し、専門知識を共有した。「大学だけではできることが限られている。企業の方々にも共感いただけたのは大きい」と舩木准教授は力を込める。
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明治学院大学 経済学部准教授