イノベーションはどんな遊びよりおもしろい――クレディセゾンを挑戦し続ける企業に変えた林野宏社長ビジネスイノベーターの群像(1/3 ページ)

後発ながら斬新なサービスを次々と打ち出し、今や3570万人(2010年3月現在)の会員を抱える日本最大級のクレジットカード会社となったクレディセゾン。今もその地位に安住することなく、新たな挑戦をし続けている。2000年から社長として同社を率いている林野宏氏に、イノベーションを生み続ける企業の条件を聞いた。

» 2011年07月20日 07時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]

「負けグセ」のついた企業を挑戦し続ける体質に

クレディセゾンの林野宏社長

 クレディセゾンの誕生は、西武百貨店と、経営破たんしていた月賦販売専門業の緑屋が資本提携した1976年にさかのぼる。1980年に入って西武クレジットと社名を変え、セゾングループのクレジット・ファイナンス基幹会社として再スタートを切ったものの、業績は厳しく、西武百貨店の中では「誰も行きたがらない会社」だったと林野氏は振り返る。

 西武百貨店では、人事部、企画室、マーケティング部、事業開発部、営業企画室などで新規事業創設などに関わり、いわば社内の「王道」を歩んできた林野氏。「これからはクレジットカードの時代が来る」との信念を胸に、1982年に西武クレジットに転籍した。

 「いったん“負け”が、組織や個人のDNAに染み込んでしまうと、それをひっくり返すのは本当に大変」(林野氏)

 社員のモチベーションは低く、職場のムードも暗かったが、「必ず勝てる」「ナンバーワンになるぞ! 」と自分にも周りにも言い続け、絶えず挑戦し続ける企業に体質を変えていく。

リスクを恐れる企業にイノベーションは起きない

 林野氏は矢継早に手を打つ。セゾングループ各店舗での積極的な勧誘活動、「即与信、即発行、即利用」のスピード発行実施、サインレス決済、有効期限を撤廃した「永久不滅ポイント」など、業界に先駆けて投入した数々の新サービスが後発、かつ、倒産状態と、マイナスとも言えるスタートから、業界大手にまで同社を成長させた。

 「あとから振り返って成功の要因を分析してみれば、いろいろな理由を挙げることはできます。でも、結局は“運”かもしれないですね。今からまったく同じことをやっても、再び成功するとは限らない。人、知識、お金など、何もないところから始めて、一生懸命にやったことがよかったのかもしれません」(林野氏)

 イノベーションは難しくないとも林野氏は言う。

 「とにかくいろいろやってみたから成功につながった。まずは“できる”と信じ、行動すること。一番悪いのは何もしないことです。プールサイドに立っているだけでは、100年経っても泳げるようにはなりません」(林野氏)

 プールに落ちれば、おぼれるかもしれないリスクはある。しかし、落ちなければ「泳げるようになる」というプロフィット(利益)もない。

 「資本主義の源はリスク。リスクに応じてプロフィットがある。リスクをとらないのは企業ではありません」と林野氏は言い切る。「やってみて、ダメならやめればいい。リスクを恐れて何もしないという風土の中で、イノベーションが起こるわけがありません」リスクを恐れない企業文化を育むにはリーダーの役割が欠かせない。

 「上司が部下に“好きなようにやれ。責任はとる”と言うべき。人は失敗し、学んで進化するものです。その試行錯誤の中でイノベーションが生まれる。これはどんな遊びより面白い。やってみると分かります」(林野氏)

 新しいサービスを提供して成功すると、他社が追随する。「気持ちがいいものですよ。イノベーターの醍醐味ですね」と林野氏は笑顔で語る。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆