イノベーションはどんな遊びよりおもしろい――クレディセゾンを挑戦し続ける企業に変えた林野宏社長ビジネスイノベーターの群像(3/3 ページ)

» 2011年07月20日 07時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:大井明子,ITmedia]
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今は成功体験を捨て、スパートすべき時

 クレディセゾンのすごさは、ここ30年もの間、絶えず進化を続けているところにある。林野氏は、「一度成功すると、傲慢になり、まわりを見下し、努力を怠るようになる。そして衰退が始まる」と自身を戒める。

 安心してしまうことが企業にとっての最大の脅威だ。油断するとあっという間に後続に追いつかれ、抜かれてしまう。

 「今までの成功体験を捨てるぞと宣言して、再び勝つための新しい戦略を打ち出すことが必要だ」(林野氏)

 一度成功すると、「こうすれば勝てる」という記憶が刷り込まれて、抜け出せなくなる。しかし、ライバルはその間も、虎視眈々と巻き返しを狙っている。顧客の指向も、市場の環境も刻一刻と変わる。「過去の成功体験のノウハウは、あっという間に古くなる。新しい目標を掲げて、挑戦を続けなくてはならない」。

 カード業界は、貸金業法や割賦販売法改定による規制強化、利息返還請求の高止まりなどで、厳しい経営環境に置かれている。多くの競合他社がメガバンク傘下への編入などによる経営体制の見直しを迫られる中、クレディセゾンはこれまでの経営体制を維持して攻めの戦略を実行しているとも見える。

 「競合他社は、現在当社以上に苦しい経営状況にあります。しかし、ここで「当社は大丈夫」と怠慢に陥るのではなく、新たな目標に向かって走り続けなくてはならない」と林野氏は気を引き締める。

 「社内を見ると、安心して気を抜いてしまいそうになっている。しかし、実は今はマラソンで言えばスパートすべき時期。創業以来初めて、圧倒的なナンバーワンになれるチャンスです。しかしこれを逃すと大変なことになります」(林野氏)

 こんなときこそ、リーダーは新しい明確な目標を提示して、新しい戦略を組み立てなくてはならないと林野氏は強調する。今後は、まず国内市場におけるシェアの拡大を図り、その後はアジア市場に参入していきたいと考えている。

 日本の市場も、まだまだ拡大の余地があるとみている。「現在日本は、個人消費の約60%が現金取引。クレジットはまだ10%強です。アメリカは20%以上ですし、日本もまだ伸びる余地があります。あと20%、クレジットが現金取引からシェアを奪うことができれば、クレジットの取扱高は現在の3倍まで伸ばすことができる」と目標を掲げる。

 また、林野氏はこのように続ける。「アジアの人口約35億人のうち、1割を取っても3億5000万人。今、多くの小売業が積極的にアジアの新興市場、特に中国などに進出しています。これらの企業と積極的にコラボレーションし、私たちも市場を広げたいですね。私は人と同じことをするのは嫌いなんです。新しいことにどんどん挑戦してイノベーションを起こす。どんな遊びよりおもしろいですよ」。

プロフィール 株式会社クレディセゾン 代表取締役社長 林野 宏(りんの・ひろし)氏

1942年京都府生まれ。埼玉大学卒業後、1965年に西武百貨店に入社。人事部、企画室、営業企画室を経て、宇都宮店次長。1982年に西武クレジット(現・クレディセゾン)に、クレジット本部営業企画部長として転籍。常務取締役、専務取締役、代表取締役専務を経て、2000年から現職。


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