いま日本企業が乗り越えるべき真の経営課題

知識創造を提唱――知識は、天然資源のように誰かに発見されるものではなく、人が関係性の中で創るもの(1/2 ページ)

一橋大学 名誉教授の野中郁次郎氏がエグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(ELForum)の第13回コロキアムに登壇。「ビジネスモデル・イノベーションとリーダーシップ」をテーマに講演した。

» 2011年04月15日 12時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 「ピーター・ドラッカーは、“知識という資源が21世紀において最も重要な資源となる”と提唱している。これを経営に生かしたのが“知識創造企業”であり、知識創造企業では、企業を単なる収益を生み出す道具ではなく、知の創造体であると捉えることが重要である」(野中氏)

一橋大学 野中郁次郎 名誉教授

 知識は、天然資源のように誰かに発見されるものではなく、人が関係性の中で創る資源である。そのため利用する人の思いや理想、感情などで、意味や価値が変化するダイナミックな資源といえる。野中氏は、「知識創造とは個人の信念を真実へと正当化していくためのダイナミックな社会プロセスである」と言う。

 知識創造では、暗黙知と形式知の相互作用のスパイラルアップにより、知識を持続的に創造していくことが重要となる。ここで言う暗黙知とは言語や文章で表現することが難しい主観的、身体的な“経験値”であり、形式知とは言語や文章で表現できる客観的、理性的な“言語値”を意味している。

 この知識創造を組織的に実現していくためのプロセスを体系したものが「SECIモデル」である。SECIモデルとは、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、結合化(Combination)、内面化(Internalization)の頭文字に由来し、4つのプロセスを高速回転させることにより、創造性と効率性をダイナミックに両立させる知の総合力を発揮できる。

 例えば、共同化で経験を通じた暗黙知を獲得し、表出化では対話や思想により概念を創造、連結化で形式知と組み合わせて情報活用と知識の体系化を行い、内面化で行動を通じて形式知を具現化し、新たな暗黙知として理解、体得していく。野中氏は、「イノベーションとは、SECIモデルのスパイラルそのものである」と話す。

 「継続的なイノベーションを組織に埋め込むことが重要。知識創造理論では、イノベーションを1人の起業家精神に由来するという見方はしない。イノベーションは組織に自律分散、集合化される必要がある。それにより、組織やネットワークなど、あらゆるレベルで自発的な知識創造が生まれ、効果的な知識の活用が可能になる」(野中氏)

 それでは、得られた知識を生かし、利益に結びつけていくビジネスモデルとはどのようなものなのか。ビジネスモデルとは、自社にしか提供できない価値を、どのような能力から生み出し、どのように顧客に届けて、すぐれた収益、コストの構造にし、利潤に結びつけるかを実践するための枠組みである。

 このとき有効なのが、知識ベースのビジネスモデルである。野中氏は、「知識ベース・ビジネスモデルは、企業のビジョンに基づいて組織基盤や顧客基盤を結びつける“場”を提供することで、企業としてぶれない軸や社会的な存在価値と持続性を実現することが可能になる」と話している。

 「伝統的にマネジメントは、経済学の影響を強く受けており、市場で利益を得ることを考えることはもちろん、持続的な戦略経営のためのエコシステムを構築することも視野に入れておかなければならない。一企業としてだけでなく、より大きな地域経済、社内、生態系との関係も築いて行かなければならない」(野中氏)

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