いま日本企業が乗り越えるべき真の経営課題

知識創造を提唱――知識は、天然資源のように誰かに発見されるものではなく、人が関係性の中で創るもの(2/2 ページ)

» 2011年04月15日 12時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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世界は“モノ”ではなく、“コト”からなる

 野中氏は、「世界は“モノ”ではなく、“コト”からなることを考える方が、より大きな関係性が見えてくる。イノベーションとは、すぐれた価値を生み出すことであり、すぐれたモノを生み出すことではない。iPodという“モノ”を開発したことが価値ではなく、いつでもどこでも簡単に音楽を聴ける“コト”という価値を提供したことが重要だ」と話す。

 ビジネスモデル・イノベーションには、現場における直感や創造、洞察、そして試行錯誤が必要であり、顧客や競合、サプライヤーなどに対する良質の情報とインテリジェンスが要請される。こうしたイノベーションは、単なる論理分析からは生まれてこない。

 「究極的には、ただ1人が持っている知識に頼るのではなく、組織全体としてイノベーションに関わる洞察力を発揮できる仕組みを組み込むことが重要。企業としてのビジョン、生き方が問われることになる。また、場づくりも重要なポイントのひとつ。“場”を基盤とする動的メカニズムが重要となる」(野中氏)

 “場”はプラットフォームよりダイナミックなプラットフォーミングと定義されている。野中氏は、「知は思いがなければ創造できない。1人ひとりの主観をみんなの主観に変える相互主観性が重要。例えば、右手が左手に触れているとき、左手も右手に触れているという身体性の相互浸透性が成立する。こうした事象が場につながる」と言う。

 現在、場を実現する手法のひとつとして注目されているのがアジャイル・スクラムだ。アジャイル・スクラムは、ソフトウェア開発手法のひとつで、開発進行中にチームメンバーの共同化、表出化、内面化と技術的な知識の連結化を促進し、専門知識を実践共同体としてのコミュニティの資産へと変換する。

 開発の見える化を提唱する企業であるチェンジビジョンでは、「毎朝のスクラム・ミーティング」、2人の開発者が交互にプログラミングを行う「ペア・プログラミング」、作業を見える化する「タスクかんばん」、うまくいった、いかなかった、次に挑戦の「KPT(Keep、Problem、Try)フィードバック」などで、スクラム開発を実践している。

 このような知を創発させる場の要件として野中氏は、次の6つを挙げた。

 ・自己超越的な意思・目的をもつ自己組織(セルフ・オーガナイジング)

 ・自他の感性、感覚、感情が直接的に共有される(間身体性)

 ・場で生成する“コト”の傍観者でなく当事者として全人的に関わる(コミットメント)

 ・多様性のバランスをとれる人事(適材適所)

 ・境界は開閉自在で中心は動く(細胞の浸透可能性)

 ・異質な知の矛盾と効率よいインタフェースの両立(球体の最小有効多様性)

 野中氏は、「こうした要件を実現できないと、いかにすぐれたビジネスモデルを創っても実践が伴わない」と話す。また、実践的リーダーシップにおける6つの能力として野中氏は、(1)良い目的をつくる能力、(2)場をタイムリーにつくる能力、(3)ありのままの現実を直感する能力、(4)直感の本質を概念化する能力、(5)概念を実現する政治力、(6)実践知を組織化する能力を挙げた。

 「ビジネスモデルをダイナミックに実践し、組織を引っ張っていく実践知リーダーシップには、大きな志とコミットメントが不可欠。そして暗黙知と形式知、対話と実践をスパイラルに回しながら、タイムリーに場をつくり、場の重層的なネットワークを築いて行くことが重要になる」(野中氏)。

 野中氏は、「実践知経営の本質は、存在論と認識論を総合することにある。存在論では“どう在るか”の意味を問い、認識論では“どう知るか”の真理を問う。その本質は、利益追求マシンとしての経営を越え、経営をよい“生き方”のプロセスとして日々錬磨する企業観である」と語り講演を終えた。

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