韓国企業の強さの中で際立っているのが「決断の速さ」だが、その裏には、徹底した情報の活用があった。そこには、日本企業として、自社の競争力を増すためのIT活用法のヒントが隠されている。1回目は、韓国企業の代表としてサムスン電子を取り上げ、どのような取り組みをしているかをみていこう。
先月、サムスン電子の2011年4月〜6月期の決算が発表された。日本のメディアでも取り上げられ、一部には「快進撃を続けてきた韓国サムスン電子が変調をきたし始めた」という論調もある。理由は、純利益が、前年同期比18%減の3兆5100億ウォン(約2600億円)と、翳りをみせたように見えるからであろうか。
しかしながら実態は、いまだに利益額は日本の電機業界を大きく引き離しているし、売上高営業利益率も9.5%と日本のトップ電機企業の倍近い。さらに、今回の収益悪化に対して李健煕会長が7月1日に断行した人事などを見ると、まだまだ韓国企業の勢いの源泉である「決断の早さ」は衰えていないと見える。
少し古いが、昨年(2010年)の春・夏、日経新聞を始め多くのメディアでは韓国企業に関する特集が組まれていた。
内容で共通しているのは、やはり「トップダウン経営」であり、そのトップの「決断の早さ」である。例えば、サムスンで初の外国人役員として選任された北米地域本部担当役員の「他の事業会社からから見て、サムスンの新事業あるいは新製品と関連した意志決定速度は驚くべきものがある。実際、迅速な意志決定がなされてすべての組織が早く動くことができる」という発言にもその特徴は現れている。
さらに、そのトップによる「決断の早さ」を支えているのが、強烈なリーダーシップや、モーレツな働きぶりなど、組織・人材に関する要因が話題になっていた。
しかし、変化の激しいグローバルマーケットにおいて、成功するためには、人・組織だけでは不十分と考える。確かに、トップが「決断」を下すためには経験も重要だろうし、「決断」を実行に移すための人・組織も重要だろうが、まずは何よりも決断するための材料が必要なはずである。サムスン電子においては、それが「情報」なのである。
先述の北米担当役員の言葉を借りるならば「グローバル企業に成長するためには、各個別市場の顧客の志向を明確に理解しなければならない。市場情報・消費者情報とそれに対する洞察を重視しなければならない。その点で、サムスンが行っているのはP&Gのような生活用品企業などのマーケティング戦略と同じことである」。
現在、グローバルの約200の法人(生産・販売法人合わせて)と約20万人の社員を抱える巨大多国籍企業となっているサムスンにとって、戦略レベルであれ戦術レベルであれ、トップが決断を行うためには、各拠点の市場の動き、各法人の状況、さらには人材の情報が必要なことは、容易に想像がつく。
実際、サムスンのCEOは、グローバルに存在している全ての拠点から上がってくるタイムリーな「情報」を把握できるようになっている。例えば、生産法人であれば、どれくらいの仕掛品と完成品を生産しているか、どのくらい生産余力があるのか。販売法人であれば、販売目標に対し、どの程度達成しており、どの程度の販売が可能なのか、かつ、そのためにどれくらいの量の製品がどのタイミングで必要なのか。さらに、生産並びに販売の計画を実施するために十分な人的資源は存在しているのかなどである。
こういった情報が把握できていることで製品の作り過ぎ・抱え込みに陥らず、かつ作戦変更も柔軟に行える。逆に、こういった情報がなければ、早期の決断、アクションが実現できないわけだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授