韓国企業の強さの秘密は「情報」重視の経営 なぜサムスンは決断が早いのか(2/2 ページ)

» 2011年08月23日 07時00分 公開
[溜田 信,ITmedia]
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「情報」把握を可能にしているのはITシステムだけではない

 このようにサムスンでは、世界中に点在する情報がITシステムを通じて集められ、CEOに伝わる仕組みを持っている。サムスンは元々1990年代初めから積極的にSCM (サプライ・チェーン・マネジメント)に取り組んできたので、システム基盤は整っている。しかし、的確な情報把握を可能にしているのは、ITシステムだけではない。同時に確立された人的・組織的な仕組みが存在する。

 例えば、各拠点の責任者は、CEOに情報を報告する際、プレゼンテーション用資料を別途作成することはない。システムが出力する情報が、そのままCEOに伝わる仕組みになっている。それは、プレゼンテーション資料を作成する過程で、情報が加工・操作されてしまうのを防ぐためであるが、それ以上に、生の情報で判断しようとしている姿勢が伺える。

 責任者を集めた会議の場で、状況報告が行われる場合を考えてみよう。事業責任者は、システムから出力される生データで報告しなくてはならないし、CEOから、その情報に対して質問された場合は、事業責任者自身が、その場で回答しなくてはならない。もし、即答できなければ、その責任者は、自分の拠点の実態を把握していないとされ、責任を問われる。

 また、仮に情報自体に誤りがある場合には、なぜそういった誤りが発生したのか、それに対してどのような対策を講じているのかを即答できなければ、その管理責任もまた問われるため大変である。

 こうなると、拠点の責任者が自ら、日頃からシステムを使って、自分が責任を持つ拠点の情報をモニターし、間違いがあれば、直ちにその原因を特定し、正しい情報に修正しておかなくてはならない。仮に、修正が間に合わなかったとしても、そういう状況にあることを把握しておかなくてはならない。

 サムスンは、それを実現するために、システム上の仕掛けと、業務上の仕掛けの両方で実現している。それが、「ITチーム」と「Management Informationチーム」の2つである。

 「ITチーム」は、文字通りシステム上の仕掛けに対して責任を持ち、CEOの求める情報が、システムとして報告できる仕組みに仕立てる。当然、各拠点の事業責任者も、自身で情報を照会できる仕組みともなっている。その1つは、グローバルサプライチェーンマネージメントシステムとなっている。

 「Management Informationチーム」は、システムを使って情報が集まるよう、システムの活用と必要な業務プロセスの実行を徹底させる責任を持っている。これは、システムを導入するだけでは、事業責任者が、情報をCEOに報告できる状態にはならないという認識に立っている。情報の背景に有る業務には必ず人間が介在しているという、当たり前だが現実的な考えである。

 このチームは、導入したシステムを活用させることに責任を持ち、結果的にCEOの求める情報がきちんと集まるようにする。とはいっても、システムの使い方を教えるというレベルで留まってはいない。システムを使わない社員を異動させるというほどの徹底ぶりだ。例え相手が事業責任者でも、システムを活用できていなければ、それを理由に更迭するのだ。事業責任者がどれくらいの頻度でこのシステムを使い、報告すべき情報をチェックしていたかをモニターし、それがよろしくない場合は、事業責任者に対し直接指導を行い、それでも改まらない場合は人事権を行使するのである。

 これが出来るのはCEOから権限委譲を受けているためであり、CEO自身が、「情報」の必要性を徹底して理解しているからこそ実現しているわけだ。ここまで徹底するからこそ、CEOが決断を下すために必要とする「情報」を、タイムリーに入手する仕組みが実現できているわけだ。

 ここにも、サムスンの事業面での強みである「トップダウン経営」を支えている強烈なリーダーシップが現れているといえる。それに加えて、企業リーダーが何のためにシステムを使うのかを明確に意識し、かつその実現に向けて、組織として徹底しているから実現できるということでもある。ここに、企業がITシステムを構築し、活用する上でのヒントが隠されている。

 次回は、どのようにして「活用できるITシステム」を実現するのかを考えてみたい。今回は情報を「集める」という点にフォーカスしてサムスンの事例を紹介したが、活用できるITシステムとは、単に情報を集めるだけではなく、いかに分析に資する情報を集め、分析結果を元に経営的アクションに結びつけ、さらには、その結果を踏まえて企業全体の仕組みを改善していくかまでをカバーするものだ。韓国企業の強さに学ぶヒントがここにも隠されているはずだ。

著者プロフィール

溜田 信(ためだ・まこと)

A.T. カーニー 戦略ITグループ プリンシパル

東京大学工学部卒業。日本IBM、EDS、マイクロソフトを経て、A.T. カーニーに入社。IT・ハイテク企業や金融機関を主な顧客として、ITマネジメント、IT戦略、IT組織改革や、営業戦略、マーケティング、営業力強化などのコンサルティングを手掛ける。共著に『最強のコスト削減』(東洋経済新聞社、2009年)があるほか、専門誌での寄稿や講演も多数。趣味はマラソン。


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