東日本大震災も、政治家として選択に迷う余地がないほどの大きな事件という意味では同じである。発生直後の救助活動、避難所の設置、そして復旧・復興。何はさておいても、まずこれをやらなければならない。まして東北地方の太平洋岸が軒並み被害を受けているのだから、それぞれの地方への支援を国が調整しなければ物事は動かない。原発事故でも放射性物質は、県境などに関係なく(ついでに言えば「同心円」ともまったく関係なく)飛散している。まさに国でなければ調整できない被害をもたらしている。国政に携わる政治家がこれほど存在感を発揮する場は滅多にあるものではない。
菅首相はそれをみすみす逃した。復興基本法が成立したのは震災後100日もすぎた6月だったし、被災自治体で山積みになっている瓦礫処理の費用を国が負担するという法律ができたのは8月にはいってからだ。津波の被害を受けたところに住宅を再建しないという「意思表示」はあるが、それでは被災者の土地をどうするのか(買い上げるのか、その評価をどうするのか、そのための測量をどうするのか)というところはいまだに決まっていない。こうした遅滞こそ菅首相の「大罪」なのである。
その意味では、誰が民主党の代表になって首相になろうと、やることは決まっている。遅れに遅れている復興をスピードアップすることだ。つまり次の内閣は「震災復興内閣」以外のなにものでもない。別に大連立など必要あるまい。来年3月までの時限政権にして、そこまで復旧・復興を懸命にやる。民主党と自民党の間でこじれそうな法案は一時棚上げする。来年度予算も、中心は復旧・復興にしてあとはできるだけ予算の組み替えによって財源の捻出を図り、増税は避ける。
こうした政策は、たとえ総理大臣を自民党が出すことになっても同じなのである。必要な政策を地元の意見をよく汲み取って立案し、その財源を見つけてくる。共産党は別だが、その他の政党はこの点においてそれほど大きな違いがあるとは思えない。もちろん国債の発行をこれ以上すべきでないと考える政党もあるだろうし、増税よりは国債のほうがいいと考える政党もあるだろう。しかしそれは最も重要な違いではないし、妥協は可能なはずだ。
来年3月までに復旧・復興で一定のメドが立てば、衆議院を解散して総選挙を行うべきだと考える。日本の将来ビジョンをめぐる論争(税制改革、社会保障改革、TPP参加問題、農業改革、子ども手当、財政改革、公務員制度改革などなど)はその時にやればいい話である。
最悪なのは、「大連立」にこだわるあまり民主党が折れ続けて、民主でも自民でも同じというイメージが国民に植え付けられることだと思う。この状態になってしまうと、来るべき総選挙で国民の選択肢がなくなってしまうからである。ここでまたボタンを掛け違うと、民主党そのものの存在意義、政党としての存在価値すら疑われかねない。民主党への評価はそこまで落ちているということを、次の民主党代表は肝に銘じるべきだ。そこが分からない首相になってしまうと、民主党は戦後最悪の総理を3人続けて出すことになってしまうかもしれない。
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授