3月11日午後、東日本をマグニチュード9.0の巨大地震が襲った。日本では観測史上最悪の地震であり、また津波の高さもこれまでの想定をはるかに超えるものだった。
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3月11日午後、東日本をマグニチュード9.0の巨大地震が襲った。日本では観測史上最悪の地震であり、また津波の高さもこれまでの想定をはるかに超えるものだった。津波で壊滅した東北地方太平洋沿岸の町の惨状をテレビで見ても恐怖を覚える。その意味では、菅内閣の対応に多少どたばたしている印象があったとしても同情できるのかもしれない。
それでも少なくとも1995年に発生した神戸大地震の時よりは進歩している。首相官邸への情報も遅滞なく届いたようだし(昼間だった上に東京も大揺れしたからでもある)、県知事による自衛隊への災害出動要請も早かった。自衛隊の動員規模拡大にもスピード感があった。また外国からの援助隊の受け入れもスムーズだったように見える(神戸大地震の時は、ドイツからせっかくやってきた捜索犬の受け入れを、検疫を理由に拒否したことがあったように記憶する)。
しかし福島原発や計画停電についての東京電力の対応には、やはり疑問を感じてしまう。まず気になるのは情報の出し方だ。そもそも原子力発電に関する情報は分かりにくいことが多い。いま起こっていることにどういう意味があるのか、その数値はどれほどの危険なものなのか、その危険を回避できる可能性はどれほどあるのかを分かりやすく説明することがどうしても必要だ。それなのに、東電の説明も、そして経済産業省原子力保安院の説明も、一般の国民の理解を促進するようなものではなかったと思う。
もちろん慣れていないこともあるだろうし、地震が起きてからおそらく寝る間もあまりないままに働き続けていることもあるかもしれない。だが、口ごもり、確認に手間取り、時には記者たちに文句を言われておろおろしているような状態では、国民を説得することはできない。情報化社会になればなるほど、「広報」が重要であるということを理解していれば、適材を配置すべきなのである。例えば、アメリカではホワイトハウスを初め各省庁には報道官という「誰よりもうまく説明できる人材」がいる。
官房長官が頻繁に会見する日本では、その人柄によって内閣の支持率も左右される。それなのに官房長官になる人は、決して国民に向かって説明することが上手な人とは限らない。名前を出して悪いが、鳩山内閣のときの平野官房長官は、話すことにまったく説得力がなかったように見えた。
さらに計画停電では、日頃にそういったシミュレーションをやっていないことが如実に表れてしまったようだ。日本の電力会社は「電気の品質」について非常に気を使っている。停電は極めて希な出来事であり、たとえ停電しても数分以内に復旧することを目標としている。そのために、余裕をもって需要を上回ることができる供給体制をつくってきた。今回のように、4100万キロワットの需要に対して3300万キロワットの能力しかないというような事態は経験がない。
一般消費者に節電を呼びかけてもいったいどれほどの効果があるのかは予測できなかっただろうと思う。それでも絶対的に供給能力が足りない以上、計画的に停電することが次善の策であることは国民も納得する。問題は、具体的な計画をいつ明らかにするかということだ。今回は直前だったことに加えて、東電側が用意したリストには間違いもあったり、説明が食い違ったりして混乱した。自分の地域がいつ停電するのか確認するといっても、東電のホームページはつながりにくい状態が続いた。アクセスが急増するのにどう対応するかなどという発想はまったくなかったかのようだ。
さらに悪いことに計画停電すると言っているのに、直前になって節電が進んで停電しなくてもよくなったとして方針を切り替えた。利用者にできるだけ不便をかけたくないという気持ちだったのかもしれないが、鉄道などの巨大なシステムは、直前の変更に対応できない。むしろいたずらに混乱を増幅させることになったと思う。自分たちのつくる電気という「商品」がどのように使われているのかという感覚を欠いていたのかもしれない。
リスク管理はむずかしいものだ。なぜならリスクが生じていないときには管理がうまくいっているという評価をされず、リスクが顕在化したときには管理できていないとマイナス点をつけられるからである。「何もない」ことで担当者を評価するためには、上司によほどの想像力が必要だ。鉄道の安全システムにも似ている。事故が起きて初めて安全システムの重要性が認識されるが、それまでは他社と並んでいればいいと考えるのが普通だ。
それにしても東電の福島原発は7基の稼働中の原発のうち安全に停止できたのは1基だけ。東北電力の女川原発はすべて安全に停止できたのとなぜこうも違うのか。可能な限り安全であることが要求される原子力発電所で、なぜこんなことになったのか。東電はもちろん発電所の徹底的な検証をしなければならないが、そもそも会社全体のシステムが原子力発電所という巨大なシステムについていってないのではないかということも、よくよく検証してみる必要があると思う。
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授