沈みゆく日本藤田正美の「まるごとオブザーバー」

減り続ける国内需要、人口。日本が生き残るために受け入れることとは。

» 2010年07月27日 09時31分 公開
[藤田正美(フリージャーナリスト),ITmedia]

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海外を目指す日本企業

 日本の存在感がどんどん薄れている。需給ギャップがいまだに30兆円前後もあるとされている現状では、日本に新たに進出しようという外国資本はそう多くはない。

 昨年秋に開かれた東京モーターショーではそれがあまりにも如実に表れた。海外の自動車メーカーで出展したのはわずか3社。それも大手はゼロである。今年開かれた北京のモーターショーは、参加企業は2100社にも及び、展示面積は東京モーターショーの10倍近い。

 そして日本企業はどんどん海外傾斜を強めている。海外での増産に踏み切るとか、生産拠点を海外に移すというニュースはほとんど毎日のように新聞紙面に登場してくる。企業の「成長戦略」としては極めて論理的な決断であるとしても、国にとっては成長エンジンがどんどん海外に出て行ってしまうということだ。

 こうした状況に対して、政府は有効な政策を打ち出せていないように見える。「強い経済、強い財政、強い社会保障」と菅総理は言うが、この3つの目標はトレードオフ的な要素も強い。財政再建を第一目標にして増税すれば、少なくともしばらくは経済にとってマイナスになる。社会保障を「強く」すれば、誰かがその負担をしなければならない。しかも菅総理にとって所与の条件は1000兆円に近づきつつある国の借金である。

 まして日本の人口ピラミッド(もはやピラミッドというよりもポッド=太鼓腹と呼んだほうがいいかもしれないが)を見ると、完全に先細りなのである。高齢化する人口を支える人数が少なくなることだけが問題なのではない。人口が減ればそれだけ消費も減る。家電製品、自動車、住宅と消費を刺激するモノが多かった時代ならともかく、今の時代はそういった耐久消費財は一通りそろっている。つまり人口が減れば消費に悪影響がすぐに出るということになる。

 民主党の大塚耕平内閣府副大臣が、「産業構造を変えなければならない」とNHK日曜討論で主張していた。その中で、大塚副大臣は「需給ギャップを解消するには需要を増やすか、供給を減らすかしかないが、需要を増やすのはそう簡単ではない。供給を減らせばその分失業者が出る。それらの人を吸収する産業が必要だが、その一つが医療や介護である」と語った。

 言っていることが間違っているとは思わないが、いくつか疑問がある。まず、産業構造を変えるのはそう簡単ではない。雇用のミスマッチが起こるのは間違いない。端的に言ってしまえば、昨日まで建設に従事していた人が明日から介護をやるというわけにはいかないのである。それにとりわけ介護では、待遇が良くないために人が居つかないという問題がある。待遇の改善はすでに民主党も打ち出しているが、本格的にやるとすれば金額は膨大だ。しかも介護施設の利用者はこれからどんどん増える。そういった負担をこなしつつ、産業構造を変えるというのは机上の計算としてはできても、現実には相当の痛みを伴うはずだ。

 もちろん医療も同様である。しかも医療は専門職が多く、医療の周辺で雇用を増やすと言っても実際にはそう簡単ではない。それに医療にかかる費用(医療産業という観点から見れば医療産業の売上ということになるが)を誰が負担するのだろうか。すでに十分高い窓口負担を支払っている患者なのか、それとも赤字に苦しんでいる保険組合なのか、それとも税金で負担するのか。税金で負担するとなれば、消費税を引き上げてもその内のかなりの部分が医療費に食われるということになる。その分、財政再建は遅れる。

いかに人口を維持するか

 こうした問題をできるだけ痛みを伴わずに解決するためには、やはり人口問題に手を着けなければならないと思う。もちろん保育所の整備によって、出生率をある程度上げることは可能だろうが、それでも人口を維持するために必要な2.07をはるかに下回っている日本の出生率を、その水準まで引き上げるのは容易ではないし、それこそ人口維持をそれだけに頼るのは百年河清を待つどころではあるまい。

 そうなると「移民」という話になってくる。これまで日本では、海外からの出稼ぎ労働者ですら厳しく規制してきた。永住権を取得することすらかなり難しいのに、移民を国として受け入れるような考え方は、少なくとも公にはまったく見られないと言っていい。

 実際、政府はインドネシアやフィリピンから受け入れた介護士や看護師について、日本語で日本の資格試験を受け、それに合格しなければ帰国させるという方針だ。そして合格者は極端に少ない。日本語が極めてローカルな言語であることを考えれば、もっと猶予を与えてもよさそうなものだが、そのあたりの寛容さはまったくない。問題は、政府のこうした方針に正面切って異を唱える人があまりいないことなのである。

 カナダでは、資格試験には何度でもチャレンジできるし、合格したら家族の呼び寄せも可能だという。こうした専門職の人々は、カナダで生活しやがて永住権や国籍を取得することもできる。それが人口を維持し、国を成長させるエンジンになるからである。

 日本は「純血主義」という幻想をそろそろ捨てて、移民ということも考えていかないと、それこそ誰も日本に来たがらないということにもなりかねない。その時は、「日本沈没」はSFの世界ではなくなってしまう。

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著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。



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