カールは経営陣に、品質改善、革新、企業拡張の構想を話しましたが、経営陣は同調しませんでした。そこでカールは、構想を実現するために行動経済学を取り入れました。
企業は年を取るにつれ柔軟性がなくなり、変化し適応することができなくなります。早い段階で成功の味を知った企業は、「メンタルモデル」を作り上げる傾向にあり、それによって、経営はマンネリ化し、場合によっては発展が妨げられます。
階層型組織構造、官僚制、規則、決まり切ったプロセスなどの「固い組織構造」を持つ企業は、成長が止まってしまいます。このような体系化された構造の中では、「硬直化」と「惰性」が生まれる恐れがあります。
通常、まず個人が柔軟性を失い、それがやがて「組織的固さ」に繋がります。この「固さ」のせいで、企業は過去から抜け出せなくなり、感覚がまひし、生き残るために必要な変化を理解することができなくなるのです。
本当の変化と革新を引き起こすには、経営者はまず、従業員の行動の原因を理解しなければなりません。人の思考と行動を妨害する「個人的固さ」には、原因が3つあります。それは、「心理的先入観」、「(仕事に限った)自信の欠如」、そして「柔軟性のない脳の結合」です。
長く存続すれば、その行動パターンが固定化し、マンネリ化していく可能性があります。そうすると小さな変化をも見逃すことになり、それが積もって気がついたときは既にその変化についていけなくなっているということがあります。常にその変化を敏感に察知して対応していく柔軟性が必要です。
カールは自分のチームに、クライアントと業界から新しいデータを集めさせました。そして、経営陣を更迭し、「オープンソーシング戦略」を立ち上げました。しかし、従業員が古い考え方にとらわれていたため、行き詰まってしまいました。
新古典的経済学は、経済参加者を「完ぺきな秀才で、完ぺきな情報通で、完全に自己中心的な人間」であると見なしています。しかし今、行動経済学の研究によって、人間の「限定合理性」がよりはっきりと解明されています。情報や知能、生まれつきの利他的な性質によって、人の思考と行動は制限されています。このように制限された中では、人の頭は心理的近道である「判断ヒューリスティック」を行って世界を理解しようとします。
例えば、知っている情報を基に意思決定を行ったり比較したりします。これを「アンカリング」と呼びます。人は「利
用可能性(最近の経験)」と「代表性(固定概念)」に頼ってすばやい判断を下します。また、企業の経営陣のように、グループに属している人は、情報を分類して変化する状況に素早く対応することができるよう、他のメンバーと経験を共有し、メンタルモデルを作り上げます。
しかし、このような近道をすれば判断を誤り、企業をダメにしてしまう恐れがあります。このような判断が歪められる現象を認知バイアス7と言います。認知バイアスの一部とその対処法は次の通りです。
認知バイアスの一部とその対処法について
・楽観的バイアス
異常事態の中では、経験を優れた行動指針として頼ることはできません。そのため、人は起きて当然の出来事よりも前代未聞の出来事を楽観的に捕えます。過度に楽観的な判断を下さないようにするには、第三者の新鮮な視点を取り入れると効果的です。
・損失回避バイアス
多くの人が、もうけたいという気持ちよりも、損失を恐れる気持ちの方を大きく持っています。そのため、古いやり方に固執したままでいます。このような、リスクを回避しようという気持ちを小さくするには、従業員の個別の判断ではなく、総合的な成果を測定することで、従業員の能力を評価して下さい。
・現状維持バイアス
人の頭は、すでに知っていることにこだわり、変化を拒絶する傾向にあります。行動を促進したり、意思決定をする際は、「現状維持」という選択肢を排除して下さい。
・代表性バイアス
型にはまった考え方を止めるには、さまざまなバックグラウンドを持つ従業員を採用して下さい。また、ジョブ・ローテーションを活発にすることで、革新的な取り組みを促して下さい。
認知バイアスを理解することで不完全な思考を司る要因を手放すことができるようになります。しかし、これこそ頭で理解するのみでなく実践を積み重ねることで、アレンジメントされた戦略、つまりは創造性に富んだ経営戦略が拡大していくものであると言えるのです。この4つのバイアスは、意思決定の際に非常に役に立ち、組織全体に潜む"とらわれ"を合理的に除去してくれる強力なツールなのです。
カールは、研究室の改装計画を立ち上げることで、大口のクライアントを取り戻し、AHD社の経営陣や従業員に自信を持たせることに成功しました。これによって、オープン戦略のメリットが証明されました。
成功を示す個人や組織の多くは、粘り強さと困難に直面した時の強さを備えています。「自己効力感」を持たない人は、困難に直面した時、凝り固まった考え方で対処しようとすることがあります。自己効力感とは、自信と強さです。自己効力感は生まれつき備わっているものではなく、時間をかけて学び、育て、強くするものです。
我慢強く困難に負けない人は、「これからも自分は目標を達成していくことができる」と信じる傾向にあります。そのため、このような人の業績は伸びて行きます。目標を達成すればするだけ、より大きな目標を設定し、それに向かって努力するからです。彼らの自信は、「成功体験」を継続的に繰り返しスキルのレベルを上げることで、強くなります。
また、ロールモデルから学ぶことでも、「成功体験」と同じように、自分は成功できると信じられるようになります(これを「代理学習」といいます)。優れたロールモデルから学ぶことは、自己効力感を高める素晴らしい方法です。さらに、「言語的説得」もまた、従業員に自信と粘り強さを与えることができます。
自己効力感を高めるとは繰り返すことにあります。そしてその粘り強さこそ堅固なものとなり、質を向上させるものであるということが分かります。自分自身が成功できる存在であるという認識を強化することがいかに組織全体に有益なそれを齎すものであるかが説いてあります。決して小さな成功体験を見過ごさず、寧ろその成功体験を育む環境を整備することが大事なのではないかと思います。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授