革新し続ける企業海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(3/3 ページ)

» 2012年05月16日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー
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脳の再結合

 新しいシステムで成功していたにも関わらず、AHD社の従業員は古い行動を再び取り始めてしまいました。まるで、せっかくダイエットに成功したのに、また脂っこい食べ物を食べ始めてしまった人のようです。カールはその原因を突き止める必要がありました。

 行動と思考の変化は脳の中で始まります。脳の配線と結合は常に変化し、成長しています。よって、昔からの固定概念に反して、老犬は新しい芸を覚えることができるのです。そして、人間も然りです。新しいスキルを覚えたり、新しいデータを入手したりすると、世界の見方が変わり、脳の回路は学んだ新しいことを取り込もうと変化します。

 例えば、銀行家と弁護士では、同じ現実でも受け止め方が異なります。これは、それぞれの受けて来た教育や身を置いて来た環境によって、脳の配線が違っているからです。また、過剰なストレスを受けながら仕事をすると、身についた考え方の癖は壊され、脳の適応能力は抑制されます。

 ストレスのある状況に置かれると、人間は本能的に反応して行動を取ります。これは、合理的知識を損なわせます。経営者はこのような神経科学の研究成果を生かし、頭が固く、行動を変えるのを拒絶している従業員を治療することができます。

 効果的な治療法には、職場の問題を前向きなものとして捕えさせることで従業員のストレスを軽減することや、プロセスを改善する方法を見つけられるような「勉強会」を開くこと、そして、従業員に関係のある問題を彼ら自身に解決させることで自己効力感を持たせることなどが考えられます。

 どんなに古く硬くなった思考を持っていても、新しい考え方やシステムを持ち込むことによるストレスは脳の配線と結合を変化させ、新しいことも取り込もうと変化していきます。ポイントは、個々が今現在置かれている問題的境遇をどのようによりポジティブに捉えることができるかどうかだと考えられます。個々の持つ問題点について定期的に向き合えるような習慣を組織に根付かせていくことが大切だといえるでしょう。

組織的固さ

 カールは、顧客と定期的に連絡を取る顧客サービスの業務に50人の人員を割くことで、AHD社を変える取り組みに勢いを付けました。顧客の実情を知ることで、AHD社の売上と士気は急上昇しました。その原因は、AHD社が次のような組織を苦しめる5つの固さを克服することができたからです。

組織を苦しめる5つの固さを克服する方法

1、官僚制度

 階層的官僚制度は、いわれのない非難を受けています。「人口密度の高い組織構造」は、大規模企業の中で情報とアイディアを広めるには妨げになる恐れがありますが、階層型組織構造と官僚制度は、企業の中で有益な役割を果たすことができます。そもそも階層は、決断とプロセスを早めるために生まれるものです。

 プロジェクトを始める前に上級管理者全員に話をすることがどれだけ不可能なことか、考えてみて下さい。この場合、階層が無ければ混乱が生じます。しかし、成長するにつれ、企業は階層を過剰に増やし、オペレーションを鈍くしてしまいます。柔軟性と敏しょう性のある手順を使いつつ、最適な階層を作ることが重要です。

 また、「適応力のある組織」を作るには、まず、長期目標を分析することで目標に順位を付けて下さい。その際、5年ごとの優先順位を付け、分かりやすいものにして下さい。そして、動きの速い出来事や予期せぬ出来事に対処する、特別チームを作って下さい。

 次に、「自己管理型実行下部組織」を立ち上げて下さい。これは、ジェネラル・モーターズ社が取り入れた手法で、チームに「社内の企業」として機能する権限を与えるものです。最後に、従業員が柔軟性と自立心を持って働けるよう、基準を設けて下さい。職務明細書や企業方針に信頼できる基準を取り入れましょう。

2、目的の喪失

 目的意識は、脳の中で生まれる本質的な欲求を満たします。目的意識を持つことで、人は目標を達成し、居場所を持つことができます。人の霊的直感は大脳皮質の右側から生まれます。この働きによって、人は未来という概念を理解し、人生の意義を探求する必要性を感じます。

 ヒトの大脳皮質は動物のそれより大きいです。また、脳は、物語を使って情報や環境刺激を分類します。従業員に100%の力で仕事をさせるには、意欲を引き出す物語を話し、目的を持たせて下さい。企業のイデオロギーは「利他的」でなければなりません。人間の人に尽くしたいという欲求に訴えかけ、従業員からはっきりとした意欲を引き出して下さい。

3、変化を拒絶する企業文化

 企業文化は、文書化されているものも、暗黙の了解のものも含め、規則によって構成されており、その規則の下、従業員は仕事をしています。文化は、「暗黙の前提」、公表された「価値観と規範」、そして目に見える「人の手」を介して広まります。強力な文化は、規則の必要性を弱めながら、企業構造を補うことができます。

 「実行力のある文化」を作るには、目標達成を後押しする価値観、規範、そして暗黙の理念を育てて下さい。また、革新を習慣的に行うには、頭を柔らかくし、創造力と寛大な心を持つよう従業員を促して下さい。文化の変化は企業のトップにいる経営者から始まります。物語や比喩表現を使ったり、ロールモデルになったりすることで、企業の価値を実証して下さい。

4、不十分な報酬

 お金では幸せは買えませんし、従業員の意欲を引き出すこともできません。従業員の採用や収益の算定には金銭的報酬が大事ですが、そのような報酬だけでは、従業員を短期間しかつなぎとめることはできませんし、長期的に見れば、従業員は離れて行ってしまいます。また、従業員は協働作業をしなくなり、「道徳的行動」は損なわれてしまいます。さらには、ごまかそうとする従業員すら出てきてしまいます。

 心理学の研究によって、人は社会に認めてもらったり、業績を評価してもらったり、本質的に魅力的な業務を与えられたりすると、お金をもらうのと同じくらい満足感を覚え、よりやる気を持つようになることが分かりました。よって、金銭的報酬とその他の報酬を組み合わせることが一番効果的です。非金銭的報酬に効果を持たせるには、素早く、確実に、目に見える形で管理して下さい。

5、現状維持にこだわる

 企業の中には、運営、能力、特定の資産の「特徴的性質」によって得をしている企業がいます。しかし、その「得」が足かせになり、企業は過去に捕らわれ、成長し繁栄するために必要な新しい手法を取り入れられなくなってしまうことがあります。

 「特徴的性質」とは、「運営能力」、「特別な財産」、「成長を可能にするスキル」、「特別な人間関係」の4つで、企業が新しい問題や機会に対応する方法を制限してしまう恐れがあります。成長を加速させるには、新しい、まだ試したことの無い戦略を素早く立てるか、それに投資して下さい。また、試験と調査を積極的に実施することで、従業員に創造的に考えさせることが重要です。

 企業の寿命を縮めているものがここにある5つの要因であることがわかります。企業とはビジネスの成功によって成長します。ビジネスとは顧客がいて成り立つものですから、顧客との接点をより深く持ちその需要に対応できる力をつけることで企業の寿命は伸びるのです。

著者紹介

クラウディオ・フェザーは、マッキンゼー社のディレクターです。同社の経営者訓練とコーチングを行うCEOネットワークの責任者です。


プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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