コンプガチャとお掃除ロボットの失敗に学び新しいパラダイムへ転換せよ。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
20年以上前になる。二足歩行のロボットを開発するベンチャー企業を訪問したときの話である。社長さんいわく「欲しいのは、低利融資でも税制優遇でもありません。ルールです。街を歩くロボットは軽車両か? 人とぶつかって怪我をさせたら責任関係はどうなるのか? ルールがないと市場はできないのです」
技術的に完成してもルールがないと商品にならない。
次はつい最近の話である。ロボットはロボットでもお掃除ロボット。米アイロボット社の自働掃除ロボットは大ヒット商品となった。出勤している間に掃除が済んでしまうのだ。日本企業は完全に出遅れてしまった。実は、ある家電メーカーはアイロボット社に先駆けてプロトタイプの開発に成功していたのに。商品化は見送られていたのだ。「仏壇にあたって家が火事になったらどうするのか?」と心配して足がすくんだ。
最近のオンラインゲームのコンプガチャを巡る顛末も示唆に富む。
射幸性が強く子供が月に何十万も遣ってしまうこともある。世論に背中を押されるように担当省庁は「違法」という見解を示した。ゲーム会社は追い込まれコンプガチャ廃止を発表。収益の3割ともいわれるビジネスを失うことになった。社会的リスクを無視して突っ走った挙げ句瓦解したのである。
お掃除ロボットとコンプガチャの失敗の原因はルール思考の欠如である。安全規格を作ればお掃除ロボットは商品化できたはずだし、先手を打って自主ルールを作っていたらコンプガチャのビジネスモデルは守れただろう。
真にイノベイティブな製品やサービスは社会にさまざまな影響を及ぼす。リスクをマネージしなければならない。ルールは最適な手段だ。グーグルが自らの個人情報保護政策を発表し世界中の政府と議論している理由もそこにある。
もうひとつ、ルールとビジネスの関係の例を挙げておこう。
ヒートテックからコラーゲン飲料まで、日本企業のこれからの強みは「機能性」にある。ただし、「なんちゃってヒートテック」を防ぐには計測方法のルールが必要だし、健康表示を認めるルールがない市場ではミルミルはただの高い清涼飲料水になってしまう。
ルールと企業競争力は多面的で他にもさまざまある。日本勢の成功例も沢山ある。着メロやインクカートリッジもその例だ。古くはソニーの盛田さんはハリウッドを敵に回して家庭用VTRが合法であるというルールを勝ち取った。あの努力がなければVTRという製品は存在しなかったかもしれない。ご関心の向きは拙著「競争戦略としてのグローバルルール」をご覧いただくとして紙幅の都合上議論を先に進めよう。なるほど、ルールが単に国の問題ではなく企業経営に直結する問題だと分かったとする。
しかし「なるほど、ルールか!我が社も」とはすぐにはならない。アタマで分かっていてもカラダが……われわれは誰もが日本特有のルール観、パラダイムに縛られている。
赤信号を渡ろうとした子供に日本の親御さんはこう戒める。日本ではルールと権威は同一視されるのだ。欧米の親は子供になぜルールがあるのかを説明するという。
最近お巡りさんは昔ほど強面ではない。代わりを務めるのがマスメディアである。ささいな法令違反事件をマスコミが馬乗りになって批判する国は他にない。外国では発表もされなければ罰則も科されないような小さな法令違反で日本企業は破綻の寸前まで追い込まれる。
理由はともかく墨守するもの。守らなければ誰かに怒られる。日本人のルール観である。
「欧米はずるいよな。負けそうになるとルールを変えて」
スキージャンプ、柔道、F1からバーゼル?とこの手の話には枚挙がない。背後には日本を追い落としたい諸外国の陰謀があると考える。もちろんそういうケースもある。F1はそうだった。しかし、常にそうだろうか。外国が打ち出した理念を斜視して低い視点からブツブツ言っているだけ、ということはないだろうか。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授