シナリオを描けなければさまざまな変化に対応できない。原発事故はそのことをわれわれに教えてくれた。シナリオを描くのに必要なのは、常識にとらわれない発想だ。
福島第一原発の事故は、いろいろな問題を提起した。現在、報告書をまとめる最終作業に入っている国会事故調(黒川清委員長)を継続的に取材していて、非常に気になるのが「情報」の在り方だ。
首相官邸と東電、原子力安全・保安院の間で情報が共有できたのかどうか、それがうまく行かなかったとすればどこに問題があったのか、同じようなことを繰り返さないためにはどうすればいいのか。さらに首相官邸での議事録を初めとする記録の問題もある。つい最近では、原発事故後、米軍が飛行機を飛ばして集めた空中における放射性物質の状況をまとめた地図が、文科省と原子力安全・保安院で放置されていたという問題も発覚した。
原発事故が起きた翌日早朝、地元の町当局には政府から連絡が入って避難したところもあれば、何の連絡も入らず「自主判断」で避難したところもある。また福島県と政府の間でも連絡調整はうまく行かず、県が先行して2キロ圏の避難を決めている。
情報の流れがうまく行かないのは、さまざまな理由があるだろうが、シナリオを描くのがうまくないということも大きな理由の一つだと思う。今回の原発事故は、大地震と巨大津波によって引き起こされた(直接的な原因は津波というのが現時点での政府の公式見解だ)。これによって例えば福島第一原発のオフサイトセンターは機能しなくなった。オフサイトセンターとは、原発事故時に現地対策本部の拠点となる重要な施設である。
停電を想定していなかったために、ありとあらゆる機器が動かない。放射性物質が原発から漏れているのに、それを防ぐようなものがない。それはなぜなのか。地震と津波はある程度セットだろうが、それによって停電が起こり原子炉を冷却できなくなるという想定はしていない。それぞれの事象が独立して捉えられている結果、それが一度に起きる確率は限りなく低いと考えられたからである。
独立した事象になるから、オフサイトセンターは限られた原発事故(人的ミスや微量の放射性能漏れ)に対応することしか考えなかった。1999年の東海村の原子力燃料加工工場の臨界事故のような事故が想定されている。
その考え方は、関西電力大飯発電所の再稼働問題でもあまり変わっていない。原子力安全・保安院が強調し、そして野田佳彦首相も明言したのは「福島と同じ程度の地震や津波があっても燃料棒が溶けるメルトダウンにはいたらない」ということだ。確かに予備電源を充実させるなどの対策を講じたことは事実である。
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明治学院大学 経済学部准教授