ドラッカー教授の言葉を実践する。実践を重ね、自分のマネジメントの道具箱を手に入れる。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
本社を帯広市に置く十勝バスは、路線バス事業を営んでいます。マイカーの普及により路線バス事業の利用者は、毎年減り続けていました。それも42年間という信じられない期間です。
補助金により事業は維持されているものの苦しい状況は続いていました。そんな中、2008年の原油高騰で同社は存亡の危機に立たされます。もはや顧客を増やすしか手はない。そう決意したとき、ドラッカー教授のある言葉が蘇ってきました。
「非顧客に聞け」。社長である野村文吾さんは、5年前から筆者の主催する読書会に参加しており、あるときこの言葉に出会いました。半信半疑で路線バスの停留所を中心にバスを利用してない周辺住民に乗車しない理由を聞いて回りました。意外なことが分かりました。住民が乗らない理由を会社では「不便」だからだと長年思い込んでいました。ところが真の理由は、乗り方が分からないという予想もしないものでした。どちらのドアから乗るのか、料金はいつ払うのか、整理券はどのように使うのか、どこに連れられていくのか…。真の理由は「不安」だったのです。
「顧客や市場について、企業が知っていると考えることは、正しいことよりも間違っていることのほうが多い」。ドラッカー教授の言葉は本当だったのです。乗らない理由が分かれば、打つ手は次々に見えてきます。手始めに、乗り方を写真つきで案内し、停留場ごとに目的別時刻表を配布し始めました。最初はドラッカー教授の「小さく始めよ」という教えに従い1つのバス停から始めました。小さく始めた試みは、顕著な成果をあげ、利用客が増えました。その後、路線全体に拡大させ、さらに他の路線でも展開させました。
その過程でさらに大きな気づきがありました。「お客様には目的があった」。当たり前のことなのですが、それを社員が真に気づいたとき「日帰り路線バスパック」が誕生しました。例えば、<温泉施設+路線バス>の組み合わせで施設利用料を割引した商品をPRしたのです。これにより主に旅行客の足となり新たな顧客を創造しました。顧客の目的は無数です。同社は旅客業から目的提案企業に変貌しつつあります。
ドラッカー教授の言葉には、実践という濃厚なエキスが詰まっており、大きな効果を期待できます。沢山のドラッカー教授の言葉を読み解き、理解することも大切ですが、何より大切なのは、1つの言葉を実践することです。十勝バスは、特定路線の売上を20%もアップさせ全体で42年ぶりに昨年の利用者を上回る結果を残しました。ドラッカー教授の2つの言葉の実践が企業を蘇らせたのです。顧客の目的は何かを知るということを知ったことで今、次々と新たなサービスを生み出しています。
「十勝バス物語」は、この3月に発刊した「実践するドラッカー〔事業編〕」に4ページに渡り掲載されています。本書には、このほかに12の物語を掲載しています。思考編、行動編、チーム編という前3作では用いなかった「物語」という手法を取り入れました。もともとは、1954年マネジメント誕生の書といわれている「現代の経営」でドラッカー教授が用いた手法です。ドラッカー教授は、「物語」を一般化してコンセプトに置き換えました。「理論は現実に従う」とドラッカー教授は指摘しました。
ドラッカー教授は、自らが見た現実を、理論に置き換え著書に記しました。われわれは、ドラッカー教授が見た現実を濃縮したコンセプト集を読んでいるわけです。コンセプトをそのまま使うには、少し練習が必要です。最初は失敗もするでしょう。十勝バスの取り組みも3年の時を要しました。しかし今では、選抜チームを作るまでになりました。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授