マニュアル活用のコツは歴史が証明しているマニュアルから企業理念が見える(1/2 ページ)

人や状況が変わっても現状を維持するためには標準化が欠かせない。過去の歴史を振り返った時、勝敗の分かれ目が標準化にあった。

» 2012年07月23日 07時00分 公開
[勝畑 良(ディー・オー・エム・フロンティア),ITmedia]

 いままでここで書いてきたことは、マニュアルは2つの概念を統合して、初めて役立つものになるということである。1つはマニュアルを通じて、企業が永遠に追求しなくてはならない課題を示すということである。即ち、企業目的を達成するための精神的風土を強化し、共同体感覚を組織構成員にもたせることである。

 2つ目は、めまぐるしく変わる時代的変化に即応しながら、現実の競争社会で生き抜いていくための手段としての技術的課題である。マニュアルはこの2つにそれぞれ永遠概念と現実概念という名を与えた。

 永遠概念としてのマニュアルの目的は、企業の構成員に対して、企業に対する誇りと信頼を与え続けるかである。これに対して、現実概念はいかにして企業の業績向上に寄与するかである。

 この2つの概念はマニュアルの中でしっかりと結びついている。組織の経営者、管理者はマニュアルをこの2つの側面から考察していかなければならない。職務の遂行面をもっと効率的に実施するとう目的のためにマニュアルを作る場合に、マニュアルのもつ永遠概念を、行動指示の中に意識して書き入れていかなければならない。あるいは運用面でこのことの重要性を教育しなければならない。

 マニュアルはどちらか1つを社員に分からせればよいというものではない。マニュアルの完成を目指すことはローマ人の市民感覚のように、内面的に共同体意識を全員に共有化させることにある。これによって、協働する人間集団としての自覚を個々人に持たせることになる。この自覚のもとで、マニュアルは生き生きと存続していくのである。まさに、これがマニュアルが永遠に追求すべき課題である。

 もう1つは、現実の職務をどう効率化し、安定させるかということである。これを現実概念とし、ローマ軍団は市民兵が用いるマニュアルをあくまでも具体的に作った。その中核に据えたのが手順追求である。そして、この2つを結びつけているのが、マニュアルの行動重視の理念を徹底させることだった。

 世界史の中でもっとも発達した現実的な世界国家を建設したのは、ロ−マ帝国である。もちろん、ロ−マ帝国は一日にして成ったわけではない。幾多の困難を経てその基盤を固め、現世的繁栄を極めたのであるが、その困難の中でも最大のものは、紀元前250年から約120年を超える地中海の覇者カルタゴとの戦いであった。世にこれをポエニ戦役という。この時のマニュアルは現在の形式と運用と変わるところがほとんどない。

 マニュアルはこのときから西欧における組織運営上の普遍的ツ−ルとなった。マニュアルを総括的に理解するためには、この時マニュアルはどう使われ、効果を挙げたかを理解しなくてはならない。

 ポエニ戦役は3回戦われ、最終的にロ−マがカルタゴを壊滅させて終了した。カルタゴの首都チェニスは三日三晩火炎を上げ続けたという。膨大なロ−マ史の著作者である塩野七生氏は、その著作のハンニバル戦記の中で、ロ−マの勝利はカルタゴにマニュアルがなく、ロ−マにはそれがあったことが勝因の大部分を占めていたと述べられている。

 カルタゴの軍隊は2つの階層から成立されていた。カルタゴ貴族とその従者である。いわゆる戦う集団は全てカルタゴ人であり、闘争術、馬術、水練等の練達者であった。彼らの一人ひとりは最優秀の戦争専門家であり、いわゆる世間からもプロとして遇されていた。他国に傭われ、各地を転戦することもあった。いわゆる組織された軍隊ではなく、戦う貴族の個々の集まりといった集団であった。これをハンニバルという歴史に名を残した将軍が率いていた。

 ハンニバルはロ−マ軍の強さは、全軍をシシリ−島攻略に集中させていることにあると考えた。シシリ−島はカルタゴとロ−マの中間にあり、両者が最終的にこの島を中間線で分割し、植民地としていた。ハンニバルは考えた。ロ−マは「自分の背後はアルプスの天険によって守られている。従って、直接ロ−マ市を誰も攻めてはこない。と考えている。だから、シシリ−島に集中してくる。これを逆手にとり、われわれがアルプスを越えて、ロ−マそのものを攻めればかれらは確実に瓦解する」。有名なハンニバルのアルプス越え戦略である。

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