目先の株高やお祭り気分に流されてはいけない。本当の意味での「景気回復」を冷静に考える必要がある。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
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4月4日、日本銀行黒田東彦総裁は「異次元の金融緩和策」を発表後、円相場は1ドル=100円を4年ぶりに突破、その後も100円前後で推移しています。
円安のおかげで輸出産業は競争力が回復した、自動車大手はボーナス満額回答、ローソンはボーナスアップ、セブン&アイ、イオンはベースアップを決めた、といかにも「景気のよさそうな」ニュースが、日々メディアで伝えられています。
安倍首相も「夏のボーナスは増えるところが多いだろう」「あと1年、2年で他の企業にも効果が波及するはず」と自信満々です。
こうした「明るい」ニュースを見ながら、ひょっとしたら、景気は本当によくなっているのかもしれない、もしかすると自分が勤めている小さな会社の給料も上がるかも、バイトの時給も上がるんじゃないだろうか……そんな期待を抱いている人も多いのではないかと思います。
多くの専門家は、「効果はまず大企業などから出てくるが、しばらく辛抱すれば中小企業にも効果は波及して給料が上がる」「正規雇用も増える」と説明しています。
しかし、こうしたニュースを見れば見るほど、わたしは日本の将来が心配になります。わたしだって、暗いニュースより明るいニュースのほうが好きです。少しでも明るいニュース、明るい要素、明るい面を見ているほうがずっと気分がいい。
みなさんは「景気がよくなる」とは、いったいどういう状態のことを言うのだと感じているでしょうか?
大卒は求人が引く手あまた、初任給も毎年上がって、中小企業の社長さんたちも機嫌がよくなってボーナスをはずみ、給料日の翌日は家族で外食もできて、休暇には海外旅行にもいけるし、将来に備えて貯金もできる。多くの人は、きっとこんな、ささやかな幸せを思い描くのではないでしょうか。わたしも同じように考えます。
毎日の仕事が忙しくても、働いた分だけ暮らし向きがよくなり、中小企業の社員も家族も、バイト君もパートさんも、身の丈にあった生活を謳歌できる社会。それが「景気のいい社会」ではないでしょうか。
けれど、最近伝えられる「アベノミクス効果」は、高級なものが売れた、大企業が一時金を支払った、株価が乱高下して利ざやを稼げた投資家が喜んでいる、円安で一部の輸出産業がひといきついた、といった話ばかりです。
これこそが景気回復の第一歩で、やがてその恩恵は、一部から全体にまで及ぶような「雰囲気」です。
2012年末から始動したアベノミクスは、大いに評価され、その効果は4月4日の「異次元の金融緩和」発表以降、決定づけられたかのような騒ぎでした。それが本当ならどんなにいいかと思います。わたしだってぜひその恩恵にあやかりたいし、日本の経済成長が続いていくのなら、それほどうれしいことはありません。
けれども、それは幻想です。このままでいったら、一般の日本人の暮らしは、おそらく2012年以前よりもずっと悪くなるでしょう。
たぶん、数少ないお金持ちは株価が高騰すれば儲かるでしょう。けれど、ごく普通の会社に勤める庶民の暮らしが豊かになることはけっしてありません。物価だけが上がり、給料は上がらない。わずかな貯金さえ物価が上がれば実質目減りする。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授