国によって文化や宗教、価値観は違うもの。世界に通用する常識はない。
アイティメディアが開催している「ITmediaエグゼクティブ勉強会」に、1950年代から1980年代にかけて外務省に勤務し、駐パラグアイ大使、中南米局長、駐ベネズエラ大使、駐スペイン大使を歴任、多才な発想と粘り強さで「アイデア外交官」として名をはせた坂本重太郎氏が登場。世界の文化や価値観の違い、政治家との思いで、皇室外交の重要性などをテーマに「42年間の外交生活を振り返って痛感していること」と題した講演を行った。
「最初に住んだのは南米のコロンビアで、ここでスペイン語を学んだ。その後、ニューヨーク、フィリピン、ジュネーブ、英国、スペインなど、9カ国に住んだ。訪問した国は、正確に数えたことはないが80カ国を超えている。とにかく外国生活が長く、文化や宗教、価値観の違いを感じてきた。外交官生活の42年間で、世界に通用する常識はないということを痛感している」と坂本氏は語る。
例えば、米国では、違うことはいいこと。中国では、原則は変わるもの。ロシアでは、ちょっと待ってで1時間待たされる。東南アジアでは、うやむやも武器。韓国では、丁寧にすることは最良にあらずといった価値観をよく耳にした。「日本人は、悪いと思うと"申し訳ありません"と謝るが、このような国は世界には存在しない。謝ると負けだと考えているためで、その意味で日本人は潔い国民である」(坂本氏)。
その一方で、慰安婦問題や靖国問題、侵略の歴史認識などに関する政治家の対応について、坂本氏は、「東南アジアの人たちの心をつかむ対応ではないと感じている。もう少しやり方があるはず。他人(ヒト)を見て法を説け」と苦言を呈する。他人を説得する場合には、相手に適した方法で説明しなければならない。理屈ばかりではなく、信頼してもらうことが大切である。東南アジアにおける経験について坂本氏は、次のように語る。
「私は、戦後初めて日本の遺族団がフィリピンのレイテ島を訪ねたときに付き添った外交官である。当時のレイテ島の島民は、たいへんな反日感情を持っており、非常に危険だと言われていた。そこで私は、レイテ島の知事に面会し、心から哀悼の意を表したところ、当初は硬い態度だった知事が"日本の外交官からそのような言葉を聞くのは初めてだ"と言って、知事自らが戦地に遺族団を案内してくれた。」(坂本氏)
反面、米国などの大国のエゴに対しては、「言うべきことは、言わなくてはならない」と坂本氏は言う。1972年、米国はベトナム戦争のまっただ中で、日本は沖縄の基地の利用など協力を惜しまなかった。しかし突然、日本に連絡なく、ニクソン大統領が毛沢東主席との会談を実現し、米中関係を改善した。しかし、日本としては「あれだけ米国に協力したのだから事前に連絡があるべき」と坂本氏。そこでお返しの意味も込め、ベトナムと和平後の復興協力に関する極秘会議を成功させた。
坂本氏は中国についても言及した。「中国は3000年以上の歴史があるが、平和共存した経験がほとんどない。1973年の日中国交正常化に向け、交渉をしていたときにはまったく相手にされなかった。しかし、トップ同士が合意し正常化後の訪中では大歓迎で、当時の周恩来首相と乾杯を繰り返した。このかわり身の早さに、中国の恐ろしさを感じた」と話している。
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明治学院大学 経済学部准教授