自分のスピーチをビデオで見て 失った自信をボイトレで取り戻すリーダーは低い声で話せ(1/2 ページ)

声が低く安定し響きがでると、自信があり堂々としているように聞こえる。部下からも頼られる上司の声を作ってみる。

» 2014年01月27日 08時00分 公開
[永井千佳,ITmedia]
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 「あのう……ボイストレーニングのレッスンをお願いできないでしょうか?」。講演会の後で、おずおずと歩み寄ってきた1人のビジネスパーソンがいました。

 斉藤勝彦さん(仮名、42歳)は、大手製造会社の主任。最近、部下3人を任されたばかりです。その斉藤さん、上半期、全体会議で司会を務めたときのビデオが社内で公開され、そこに映った自分の姿を見て、「俺ってこんな落ち着きのない話し方をしていたのか。」と落ち込んだそうです。

 「これじゃあ部下がついてくるわけない……」普通の人は自分の話す姿を客観的に見たことがありません。そして、あるときたまたまビデオなどで目にして驚くのです。

 例えば、結婚式の友人スピーチ。ビデオを見ると、アガりきって声も揺れている。息が止まりポソポソと話し、なんともと頼りない。普段なら間違えないようなところでつっかえまくる。そして、大抵の人は想像している以上に自分の声が「甲高い」ことに驚きます。

 「なんてかっこわるい。こんなの自分じゃない。お願いだからここの部分だけ消してほしい!」そんな思い出すだけで布団をかぶって寝てしまいたいような消したい過去を持つ人は多いのではないでしょうか?

 斉藤さんは、ボイストレーニングで、「しっかり話せる自分になりたい」と言います。できればかっこよくありたいけれど、「とにかく最低限かっこ悪いのはもう嫌」というのが本音。3人の部下たちの、無言のまなざしが心に突き刺さり、なんとかしなくてはという気持ちでレッスンに来ました。

 そして、「4ヵ月後の全体会議までに絶対声を良くしたい。もっと低い声で、落ち着きのある声で話したい。」と言います。私はこういうとき具体的なイメージを知りたいので、「有名人だとどんな人の声ですか?」と聞くようにしています。斉藤さんの答えは、「福山雅治さんのようになりたい」でした。

 福山さんの声は、歌手として鍛えられた力強く響く低音と、分かりやすく、かつ、自信ある雰囲気でしゃべるところが魅力で、人を惹き付ける力があるのです。斉藤さんの声は元気があるのですが、声にコシがなく、力強さと透明感がありません。そして声が高い。しかし、横隔膜のスイッチさえ入れば、福山さんの声に近づけることは可能です。

 分かりました。それでは、なってみようじゃないですか。福山さんの声に。

 1回目のレッスンでは、斉藤さんがしゃべっている様子をあらためて録画して2人で見てみました。やはり、声が上ずり甲高いため、自信のなさそうな雰囲気が漂います。本人も自覚しているのか、伏し目がちになってしまいます。

 そして、録画を見て大事なことに気がつきました。話すときにほとんど呼吸できていないのです。

 呼吸なんて当たり前、と思うかもしれませんが、毎日長時間座りっぱなしで、ほとんど声を出さない生活が続いていると、呼吸するための横隔膜が弱まり、呼吸が浅くなってしまうのです。横隔膜はインナーマッスルだという話をすると、斉藤さんはポンポンとお腹を叩きながら「マッスル? 最近お腹も出てきちゃって……。腹筋運動数回しか出来ないんです。それって関係ありますよね?」と聞き返します。

 よく勘違いされているのですが、腹筋が6つに割れていても良い声が出るとはかぎりません。横隔膜は呼吸でしかトレーニングできないのです。斉藤さんは、それを聞いて安心したのか、やる気になってくれたようです。斉藤さんには、よい声を出す土台をつくる「横隔膜トレーニング」に加えて、低い声を出すための「低音トレ」に挑戦していただきました。これは、その人が本来持っている低い声を開発するのにとても有効です。

 初回のレッスンから2週間後。変化があったか聞いてみました。すると、会社で「笑い声が大きい」と言われたのだそうです。笑い声が大きくなるのは横隔膜のトレーニングがうまくいっている証拠です。息を大きく吸って吐けば、自然と声のボリュームは大きくなります。これで低い声がより出しやすくなるのです。アドバイスしながら何度もやっているうちに、斉藤さんの声に響きがのって来たようです。

 「あれ? 声が響いている。こんな感覚初めてです。はあ! あ〜〜〜〜!」

 「いい線いってますよ!いいですね!」

 「はあ! あ〜〜〜!」

 「もう、そろそろいいんじゃないかしら……」

 「はあ! あ〜〜〜!」 

 「あのう……次に進みたいのですが……」

 「はあ! あ〜〜〜!」 

 斉藤さんは何度も繰り返してやめません。真冬なのに額に汗をかきながら、まるでなにかに取りつかれたように発声する斉藤さん。声が変わったことが嬉しくて、つい夢中になってしまったのです。

 ボイストレーニングの生徒を見ていると、良い声が出る瞬間は、いきなりやってきます。これはトレーニングにより「横隔膜のスイッチ」が入ったからなのですが、まるで魔法にかかったように急に声が響き始めます。私も、初めて響きをつかまえたときは、せっかくの魔法がとけてしまわないように、夢中になって練習しました。でも、ノドはデリケート。くれぐれもやり過ぎないように……。

 開始から1カ月後、「こんにちは」とレッスン室に入ってくるときの斉藤さんの挨拶の声は、以前より低く安定しています。声に透明感も出て、しゃべりが引き締まった印象です。様子を聞いてみると、「オフィスで離れた場所にある人事部の人を呼ぶと、返事をしてくれるようになったんです。今まで振り向いてくもれなかったんですよね。声を出すのが楽しくなってきました」と喜んでいます。声が通るようになってきたようです。

 でも1つ問題がありました。トレーニングでは低い声で話すときに、横隔膜を意識するため、お腹に手を当てながら声を出すのですが、手をはずすと、横隔膜がしっかり使えなくなり、とたんに声が弱くなってしまうのです。そこで、手のかわりに日本に昔からあるサラシを巻いてもらうことにしました。

 「えーっ! サラシですか?そんなの売ってるんですか?」と驚く斉藤さん。サラシなんて今どき売っていないと思われるかもしれませんが、意外にデパートや大型スーパーに行くとたいていは置いてあります。さっそく試しに、横隔膜のあたりにしっかりとサラシを巻いてみたところ、お腹を意識できるので、良い調子で発声できるようになりました。

 4カ月のレッスンが修了しました。斉藤さんは、全体会議での司会で、リベンジを果たせるのでしょうか?ワイシャツの下にこっそりサラシを巻き、堂々と話し始めると、全員の目が斉藤さんに釘づけに。いつもは話し終わっても声さえかけられなかったのに、質問が活発にとびかいます。さすが福山ボイス効果。

 普段から「しっかりしてくださいよ〜」と言われている女子社員から「今日は気合入ってましたね」と声をかけられたそうです。部下たちの表情も心なしかホッとしているように感じられたと、後日、斉藤さんは嬉しそうに報告してくれました。部下にとっても、上司が立派に話している様子を見るのは嬉しいものなのです。斉藤さん、これからも部下から頼られるビジネスパーソンでいてください。

 「よく通る声の響きは腹筋ではなく、横隔膜を鍛えて得られる」は斉藤さんの事例から得られた教訓です。

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