前向きに働く上で大事なのは目的である。何のための仕事なのか、なぜこの仕事をやる必要があるのか。目的を明確にすることから成長は生まれる。
「職場での育成」に関して4種類の支援から見た調査結果をもとに、「社員が自律的に成長し続ける組織の創り方」と題した連載。今回は、挑戦をうながす「ストレッチ支援」、内省をうながす「キヅキ支援」、技術的な支援である「アドバイス支援」、精神的な支援である「ハゲマシ支援」の支援状況と、メンバーがどれほど現状に対して否定をしているのかまた、周りへの自発的な働きかけを自らしているのか、などとの関連性を中心に、メンバーが前向きに行動する職場とそうでない職場の違いについて、マネジャー自身がやることをまとめていく。
人材育成の仕事をしていて、経営者や人事担当者から依頼を受けることの多くは、「もっと一人ひとりが自律的に、主体的に行動してもらいたい」「もっと職場でどんどんチャレンジし、成長してほしい」というようなことだ。
変化が激しい世の中で、1つの答えを探してもなかなか見つからない状況で、社員一人ひとりが自律的に考え、行動していくことがより求められている。しかし、上記のような依頼を受けるということは、必要であるにも関わらず職場でそのような行動をしている人が少ないというのが実態なのだろう。
一方、弊社では主体的な行動の一つとして「リーダーシップ」という側面から職場の環境について、人事担当者220人と、現場社員873人に対して「自社にリーダーシップを発揮できる環境があると思いますか?」という質問をしたことがある。その結果は、人事担当者は58%が「そう思う、まぁそう思う」と回答したのに対して、現場社員は「そう思う、まぁそう思う」と回答したのは28%にすぎず、人事担当者と現場社員の認識に、30%ものギャップがあったのだ。人事担当者は、環境はあるが本人の問題だと思っている傾向が高いのに対して、現場社員はそうは思っていない。環境の問題か本人の問題なのか。どちらかのみというわけではないが、自分が原因ではないという気持ちからこのような結果が生まれている可能性もある。
しかし、そうはいっても、忙しい中でも前向きに取り組んだり、自ら上司や先輩に支援を求め新たなことに挑戦したりする職場が無いわけではない。では、その職場の違いはどこから起こるのか。
育成プログラムで若手や中堅社員に会うと、皆忙しいと言う。特に、「なぜ新しいことにチャレンジしないのか」「なぜ自ら主体的に行動しないのか」と問うと、「時間が無いから」「忙しいから」と答える。しかし、だからといって、後ほど「時間に少しゆとりができたときには行動したか」と問うとYesとは答えない。時間という分かりやすい理由を持ち出すことによって、行動していない本当の理由から目をそらしている人は多い。掘り下げて聞いていくと「これ以上は無理」という気持ちが、結果として「忙しい」という言葉を引き起こしていることが多いのだ。
「職場での育成」に関する4種類計32の支援の実施状況と、「これ以上、仕事が増えると"もう無理"と感じる」「これ以上、仕事のレベルがあがると"今の自分では無理"と感じる」という回答に関連性があるかどうかを見ると、以下のような結果になる。マネジャーを中心に職場のメンバーが互いに上位の支援をよく行っている部署は、相対的に「無理」と感じていないという結果なのだ。
1位:日常的に声をかける(ハゲマシ支援)
2位:成長の魅力を伝える (ストレッチ支援)
3位:周囲の期待を伝える(ストレッチ支援)
4位:期待ステージを伝える(ストレッチ支援)
5位:聞き役になって否定しない(ハゲマシ支援)
「日常的に声をかける」「聞き役になって否定しない」というようないつでもコミュニケーションをとることができる状態になっているかという点と、「成長の魅力」「周囲の期待」「期待ステージ」をしっかりと伝えるという点が上位にある。
ハゲマシ支援の「日常的に声をかける」「聞き役になって否定しない」が高い関連性を示したが、近い考え方として、精神科医E・バーンが提唱したストロークという言葉がある。ストロークというのは、「人の存在を認める行為」を意味し、人間は常に他者からのストロークを求めていると提唱している。また、褒める、励ます、ねぎらう、許す、うなずく、関心をもつ、というような肯定的ストロ−クが増えると、「私は大事にされている」「私は価値のある人間と認められている」という喜びを感じ、成長に役立つとも言われている。皆さんの職場ではどうだろうか。前述のような肯定的なストロークが行われ、「私は大事にされている」とメンバーは思っているだろうか。
一方で、ただ時間をかけて、ストロークばかりした方が良いという訳ではない。時間は有限なものである。先日ある企業のマネジャーたちと、メンバー育成について議論を交わしていたときに、このストロークに関して、「メンバーへのかかわりを多くして、ただ仕事を増やすことが大事なのではい。定期的にかかわり、良い関係を築いているからこそ問題の早期発見や支援するべき的確なタイミングを見極めることができ、結果として、全体の仕事が減っていく。それが大事なことだ」という意見が出ていた。このように全体を俯瞰して、タイミングを逃さず行動に移すことが大切なのである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授