企業理念に97.3%の社員が共感。その秘密は、負けない経営哲学と対話ベースのマネジメント気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

いかに、楽に勝つかを考えること。失敗しない条件がそろえばあとは頑張るだけ。負けない市場を見極めて頑張りを積み上げる。

» 2014年02月19日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 大学卒業後、立石電機株式会社(現オムロン株式会社)に入社した田坂吉朗氏は、社内の新規事業としてエンタテインメントビジネスを始め、2007年にオムロンから独立しフリューを設立した。「人々のこころを豊かで幸せにする良質なエンタテインメントを創出する!」を理念に掲げ、プリントシール機やアミューズメント施設用景品、モバイルコンテンツ、家庭用ゲームなどを企画開発、販売する総合エンタテインメント企業を作り上げてきた。その成長を支えた組織マネジメントはどのようなものだろうか。

負けないマーケットを見極めれば、新規事業の成功率は上がる

中土井:田坂さんは、最初はエンジニアとしてオムロンに入社され、その後、独立されたそうですね。

田坂吉朗氏

田坂:大学卒業後、エンジニアとして勤務しました。その後、企画リーダー、事業部門長などの役職を経験し、26年間オムロングループの会社に在籍しました。携わっていたのは、全て新規事業です。入社してすぐの頃、エンジニアとして参加した新規事業は100%失敗し、全く結果が出せない状況が続いていました。

 新規事業の成功率を表現して、「千三つ」と言うことがあります。確率にすると、0.3%の成功率という意味です。オムロンで働いていたときの新規事業の成功率もとても低い状態でした。優秀な人たちが入社し、きちんと指導されているにもかかわらず、新規事業はことごとく失敗しているんです。

 どうしてこんなに失敗してしまうのか。原因を考えると、強い競合と戦わなくてはならない事業にばかり取り組んでいたからだと気付いたんです。自分がリーダーになってからは、いかに楽に勝つかを突き詰めて考えるようになりました。この原体験は、今の経営にも生かされています。

 もうひとつ、当時念頭に置いていたのは、結果に執着するということです。数字を最重要視していました。数字最優先の考え方で事業を運営したところ、結果的に、プリントシール機の事業は3年目で黒字化し、アミューズメント景品のぬいぐるみのプライズ事業、モバイルコンテンツ事業、コンシューマーゲーム事業も5年で黒字化しました。

新規事業のマーケットを見極める3つのポイント

中土井:勝てそうな市場を狙うからこそ、事業を成功へと導くことができるのですね。新規事業を興す際、市場を見極めるポイントはありますか?

田坂:新規事業の選別基準として、3つの条件を作っています。

 1つ目は、マーケットの大きさが基準以上あること。例えば、マーケットを100%押さえても2億にしかならないところは、新規事業領域としては小さすぎます。私たちの場合、マーケットの大きさは100億以上と設定しています。

 2つ目は、寡占状態でない市場を選ぶこと。いくら100億の市場であろうと、既存のプレーヤーがすでに過半数を取っているようなところは、新規事業を始めるのには適していません。シェアNo.1の企業でも、10%くらいしかない市場は探せば結構あります。そのようなところは、新規参入しても比較的ビジネスがしやすいマーケットです。

 3つ目は、身の丈にあったマーケットを選ぶこと。先ほど「100億以上の規模のマーケット」と言いましたが、大きすぎてもうまくいきません。成長市場で、これからどんどん大きくなる市場を選ぶ方がいいと思われがちですが、そういう市場には、どうしても大きくて強い企業が参入してきます。大きな市場ではなくても、もしくは、縮小しているような市場であっても、そこに参入して数字が取れそうなら、巨大な市場を狙うよりもいいのです。いかに、楽に勝つかを考えることが重要です。失敗しない条件がそろえばあとは頑張るだけでいいんですから。

スキルとノウハウを積み上げる感覚で、事業を成功させる

中土井:なるほど。負けない経営というのは、ユニークな発想だと思います。

田坂:負けない市場を見極めて事業を計画し、実際に事業を始めた後は、「積み上げる感覚」を重要視しています。10の頑張りで勝てなかったら、15頑張る。それでもだめだったら、20頑張るというようなやり方では続きません。10の頑張りをずっと続けていく中で、スキルやノウハウを積み上げ、強い事業を作るのが理想だと思います。

 何かアイデアがあり商品を作ったが、うまくいかなかったので、次は全く違う商品を作り、外れれば、また違う商品を作るというやり方では、積み上げる感覚は持てません。重要なのは、パフォーマンスを測定することです。売れた、売れなかったという結果をブレークダウンすると、さまざまな要素が出てくると思います。ゲームなら、キャラクターデザイン、シナリオ、声優さんの人気度などです。どの要素を強くすれば売れるようになるのかを測定して、次の商品に生かします。その積み上げが成功につながるんです。

経営スタイルは、飽くなき利益の追求

中土井:立ち上げてすぐの会社は、たどりつきたい目標に達することができずに、失敗してしまうことが多いと思います。でも、田坂さんの場合は、勝てるマーケットを狙ってそこでノウハウやスキルを積み上げて、負けない経営を実現させているんですね。

田坂:フリューにも、「Facebook創立者のザッカーバーグになりたい!」という人はいます。逆転サヨナラ満塁ホームランを打ちたい人です。大きく勝つことを目指している人はとても多いですが、そのほとんどの人は、たどり着けないで終わってしまいます。

 オムロンにいたとき、事業の計画を半年ごとにプレゼンしていたのですが、「お前の戦略はつまらない!」なんて言われていました。負けない経営は、ドキドキワクワクしないんです。それでも、成功するために事業をするんだから、やはり成功確率の高いところを狙う経営をするべきだというのが私の考えです。

中土井:田坂さんの経営のスタイルが見えてきたように思います。経営のベースには、確率論があるんですね。

田坂:売上と利益をどんどん増やす、飽くなき利益の追求が私の経営スタイルです。「この事業で世界を変えてやる!」みたいな気持ちはあまりなく、事業を運営することそのものを楽しんでいます。フリューでは、「人々のこころを豊かで幸せにする良質なエンタテインメントを創出する!」という理念を掲げているのですが、これは、絶対に実現したいビジョンというよりも、自分の社会人生活における道徳心のようなものです。その土台の上で、どれだけビジネスを大きくできるかというゲームを楽しんでいるのかもしれません。

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