組織のあり方すべてを決定づける「利他」の哲学気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

人生はジャッジの連続。物事をジャッジするときに、自分目線ではなくて相手目線になって考えられるようになると、人生は豊かになる。

» 2014年05月14日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 2000年1月にITネットワークエンジニアの育成・派遣会社として創業した、アイエスエフネットを母体としたアイエスエフネットグループ。ニート、フリーター、障がい者、育児や介護従事者、ひきこもり、シニアなどの就労困難者の雇用に積極的に取り組みながら利益を出し続ける、奇跡の経営を実現している企業グループだ。「雇用の創造」を大義とし、IT事業を通じて、雇用環境を創出。障がい者雇用のパイオニアとして、グループ全体で約3000人もの社員を抱える組織へと成長を遂げた。不可能を可能にしてしまうこの企業グループには、渡邉幸義代表のどのような想いがこめられているのだろうか。

採用のポイントは、経験ではなく人間性

中土井:何がきっかけで起業したのか聞かせてください。

渡邉幸義氏

渡邉:インターネットの分野でビジネスを展開しようと考え、2000年に会社を作りました。ハードウェアや通信では、必ず人が介在しなければならない場面があります。世界中にエンジニアが必要になり、都心だけなく地方にも雇用が生まれると考えました。

 インターネットの分野で人財を切り口に事業を始めようと決心し、日本に通信の事業が今ほど普及していなかった時代から、ネットワークエンジニアを育成し始めました。履歴書にこだわらず、人間性を重視して知識も経験もない人を採用していたので、一般的に就労が困難といわれるフリーターやニート、ひきこもりの人なども、結果的には多く採用していました。採用後は技術研修を受けていただき、資格を取得後ルーター設置などの仕事をしてもらい、事業をスタートしました。現在ではグループ全体で約3000人の組織になっています。

中土井:未経験の人ばかりを雇ったのはなぜですか?

渡邉:無知識未経験で何もないからこそ、謙虚な人が多いんです。アルバイトしかしてこなかった人が正社員として勤めるためには「頑張ります!」と言うしかないです。経験があるかどうかよりも、謙虚で性格がいい人を雇いたいと思っています。

 人の性格を変えるには10年かかると聞いた事があります。キャリアはあっても、自分勝手なことを言っているような人を変えようと思ったら10年かかる。だったら、経験はなくても性格のいい人を雇って、資格を取ってもらうのがいいと考えました。資格は早ければ3カ月ほどで取れます。資格を取ってもらいどんどん現場に送り出しました。

 エンジニアとして現場へ派遣されると、普通は勤務時間が終わったら時間通りに帰ります。でも、うちの会社の人間は、最後までそこの皆さんを手伝うんです。お金はいりませんと言って働くんです。あるプロジェクトでは、派遣されたうちの社員を部長が信頼して認めてくれ、最後には「次のプロジェクトのメンバーは、全員君の会社にお願いするよ」と言ってくれたこともありました。

1000人を超えると、組織には哲学が必要になる

中土井:3000人もの大きな規模の会社で、社員が同じ方向を向いてうまく成り立っているのには何か秘訣があるのですか?

渡邉:組織の規模1000人までは、ビジネスモデルがあればうまくいきます。でも、1000人を超える組織になると、それだけでは成り立たなくなります。そこで必要になるのは、哲学です。組織が1000人を超えたときに、少なくとも上の2割くらいの社員が会社の哲学を熟知していないと、組織はばらばらになってしまいます。哲学から生まれるリスペクトが組織をまとめます。

 私の会社の哲学の軸は「利他」です。相手目線でものを見るということです。自分目線なのか相手目線なのかで、人間は物事の見え方が変わり、行動も変わります。相手目線になれると、人生がとても豊かになります。

社員が1000人を過ぎたあたりから、生活保護を受けている人や障がいのある人などが、さらに来てくれるようになりました。そのようなときには、「この人を雇ったら、この人は幸せになれるだろうか」と考え、幸せになれると感じた場合には雇うようにしています。

 最近は、毎日4人くらいのペースで障がいのある方を採用しています。仕事があるから雇っているのではなくて、仕事がないのに雇っているんです。退路を断つのが私のやり方です。目の前に困っている人がいて、その人たちを雇うために、私は休まず汗をかいて仕事をする。そういう私の姿を知っているからこそ、社員はついてきてくれているのだと思います。

「守破離」の段階を経て、自然と生まれた哲学

中土井:どのような道のりを経て、「利他」という哲学に行き着いたのですか?

渡邉:会社を作る前に、京セラの稲盛さんの盛和塾で学びました。盛和塾に入るには、会社の代表権をもっていなくてはならなかったので、当時、勤めていた先輩の会社の代表権をもらいました。それで、盛和塾に入ったのですが、代表になったのと同時に、その会社の借金数億円の連帯保証人になってしまいました。その半分は私の借金となりました。今の会社を作るときもまだ9500万円位の借金が残っていました。そのときの借金は5年前にようやく完済しました。それくらいの思いで飛び込んだのが盛和塾でした。

 最初からグローバルカンパニーを目指し盛和塾で3年半学びましたが、当時の私は、稲盛さんの本を読んでも、テープを聞いても、全く分かりませんでした。それを稲盛さんに言うと、大事なのは「守破離」だと教えられました。まずは言う通りに全部やってみて、型を作れと言われました。「守破離」の「守」ですね。それで、通勤のときに、毎日4時間テープを聞くというのをずっと続けました。そうすると、あるとき突然自分の中に「親を大切に、家族を大切に、仲間を大切に、部下を大切に」という今の会社の信条が自然と湧き上がってきました。

 これが、「守破離」の「破」の段階です。そこからは、型通りではなくて、オリジナリティを出せるようになりました。学んだことをベースに自分のオリジナリティが出てくると、言葉に魂が生まれます。「守破離」の「離」の段階です。今の会社の哲学も、グローバルカンパニーを作るには、全世界に共通する哲学が必要だという考えから、全部オリジナルで作りあげたものです。

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