バッドエンドがすべて悪いわけでではない。現実であれば、悪いことが起ころうとしていたらどこかで修正するが、物語だから行きつくところまで行ける。最悪のところまで行かないためにどうすれば良かったのかが考えられる。
13年前に起こった姉の失踪事件を巡り、事件当時と現在に残された謎は何を示すのか?戻ってきた姉に違和感を持つ妹が記憶を辿り、真相に迫る物語には、ミステリ好きでなくても引き込まれてしまうはず。
この作品はどのように作られていったのか。その成り立ちに迫るインタビューです。
――湊さんの新刊「豆の上で眠る」についてお話をうかがえればと思います。読ませていただいて、物語の序盤でひっかかっていたことや不思議なことが、後半で次々に腑に落ちていくという格別な気持ち良さがありました。まずは、この作品を執筆するにあたってどんな狙いを持っていたのかをお聞かせ願えますか。
湊:この作品は「週刊新潮」で連載していたものなんですけど、自分にとって初めての週刊誌連載だったこともあって、読者の方が毎週楽しみにしてくれるよう、少しずつ真相に迫っていくような話にしようと思っていました。
それならば、失踪や誘拐、行方不明の話がいいかなというのが頭に浮かんだのですが、ちょうどその時期に自宅の猫が行方不明になるということがあったんです。
その猫を探しに行った時に感じたのが「近所のよく知った家でも、余所の家を外から覗くのって大変なんだな」ということでした。不審に思われますし、猫を探していることをきちんと説明しても、「見かけませんでしたよ」と言われたらそこでおしまいです。主人も探しに行ってくれたのですが、男の人は余計ダメですよね(笑)。
――信用してもらえないわけですね。
湊:そうです。猫を探していることがわかるように籠を持って行ってもダメでした。それで、「何かを探すということは、たとえ見知った場所や人の中であっても難しいんだな」と。同時に、行方不明になったのが人間で、もっと切羽詰まった状況だったとしたらどうなるだろう、とも考えたんです。
そういう時、もし子どもがいたなら、藁にもすがる思いでその子を送り込んで、近所を探させる親はいるかもしれません。大人よりも子どもの方が玄関を開けてもらえることがありますから。でも、そこに送り込まれる子どもはどう感じて、どこまでのことができるだろう、という思いがありました。親であれば、自分を犠牲にしてでも子どものために何かをすると思いますけど、子どもは兄弟や姉妹のためにどれだけのことができるだろうと。それもあって、姉妹を登場させて、妹が失踪したお姉さんを探しに行かされる話にしてみようと思いました。
――個人的には、主人公の姉である「万佑子ちゃん」が失踪した時のお母さんの行動が常軌を逸していて怖かったのですが、今お話を伺うと母親としてはそうせずにいられなかったのかもしれないなと思いました。
湊:もちろん、すべてのお母さんがああいうことをするわけではないと思います。ただ、この話で書いたように、警察に任せていても進展が見られず、そうこうしているうちに別のところで失踪事件があって、自分の娘と同年代の子がひどい目に遭っていたというのを知ると、もう居ても立ってもいられなくなってしまう人もいるんじゃないかと思ったんです。この話のお母さんが特別なのではなく、普通の人が特別な状況に追い込まれたら、特別なことをしてしまうのかもしれません。
――この作品の中心にあるのはやはり「失踪事件」ですが、モチーフにした事件はありますか?
湊:それは特にありません。ただ、子どもの失踪事件自体はよく聞きますし、起きてほしくないことです。そういう事件を扱って、親や警察の目線から書いた作品はあるはずですが、私は家族として事件の渦中にあるはずなのに、大事なことは教えてもらえない子ども、たとえば被害者の兄弟や姉妹の目線で全体像を書いてみようと思いました。
――単に失踪事件が解決するまでを書くのではなく、事件当時の描写と、事件後の描写が交互に繰り返されるのがとてもスリリングでした。
湊:ありがとうございます。事件当時に何か謎があって、その謎が事件後の「今」でも違う形で存在する、というように二つ謎があることで読者の方の興味を引くことができるのではないかという思いはありました。事件当時は、失踪した「万佑子ちゃん」をみんなで必死に探しているのに、事件後の描写では戻ってきている。じゃあどうやって戻ってきたのか? ということです。
片方の謎だけでは見えてこないものが、もう片方の謎によって明らかになってくるだろうというのは頭にありましたね。
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明治学院大学 経済学部准教授