人を動かすためにはどうすればいいのか。1000人から10億人まで、規模別の人の動かし方を戦略PRの第一人者と「LINE」の仕掛け人が伝授する。
「ITmediaエグゼクティブ勉強会」に、LINE 上級執行役員 法人ビジネス担当の田端信太郎氏とブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長の本田哲也氏が登場。戦略PRの第一人者と「LINE」の仕掛け人が「ビジネス成功のための“人の動かし方”」を伝授した。
以前はゴールデンタイムにテレビに広告を出せばモノは売れた。しかし現在、どんなにゴールデンタイムに広告を出しても、売れないモノは売れない。人を動かすためには、広告よりもマーケティングコミュニケーションが重要になっている。
田端氏は、「ポイントは消費者がコントロールできなくなったということ。コントロールできないものをコントロールしなければならない矛盾の解決が広告業界の悩ましいところだ」と語る。
現在、企業が発信するあらゆるマーケティングコミュニケーションは「無視」されて当たり前の状況である。たとえば企業メールの開封率は下がり続けており、いまや90%のメルマガは開封すらされず、ゴミ箱に直行している。
ディスプレイ広告のCTR(クリックスルーレート)も下がり続け、99.8%の表示はクリックされない。無視されている以上は、どれだけメルマガを配信しても、ディスプレイ広告を掲載しても、マーケティング担当者は仕事をしていないのと同じである。
また総務省の調査では、2001年〜2009年で流通した情報量は2倍に増えたが、消費した情報量は1割しか増えていない。日本人がメディアに接する時間は1日平均6時間。仕事の時間と寝ている時間を除けば、ほとんどの時間にメディアに接していることになる。
田端氏は、「メディアに接する時間は、限界に達していて、これ以上の拡大は望めない。需要と供給のギャップが大きくなる中で、ウェブサイトを公開して仕事をした気になっても、そこにアクセスする人がいるかどうかは別の問題だ」と話す。
さらに2002年のHDDレコーダー普及率は20%以下だったが、10年後の2013年には普及率が77%に増えている。NHKの調査では、ビデオを見た人の割合が2005年から2010年で約1.5倍になっており、同じくビデオを見た時間も10%以上増えている。
これが意味するのは、土曜日のフェアに来てもらうために金曜日のゴールデンタイムの番組に広告を出しても、視聴者がビデオに撮って日曜日に見たら広告価値はゼロであるということだ。現在メディアには、たくさんの選択肢があり、いつ見るかも多様なのである。
このような状況で、消費者をコントロールしようと思っても無理である。それではなぜ、広告主はテレビ広告を止めないのか。
マス広告は潜在需要をコントロールするため、ソーシャルはコントロールできない潜在需要のため、有料サーチエンジン(SEM)は顕在化需要をコントロールするため、検索エンジン最適化(SEO)はコントロールできない顕在化需要のためにある。
田端氏は、「メディアの組み合わせは、ゴルフクラブの選択と同じ。遠くに飛ばすときにドライバーを選ぶように広く大衆にアピールするときにはテレビ広告を選ぶ。またカップを狙うときにパターを使うように1点に集中するときには検索エンジンを選ぶ」と話す。
月間数千万人を相手にするマクドナルドのマーケティングと、年間数千台売れればいいフェラーリのマーケティングは同じではない。たくさんの人にアピールするマーケティングと限られた人にアピールするマーケティングは別のものだ。
複数のメディアを組み合わせるためには、必要なリーチの規模を把握しなければならない。何人を動かせば成功なのか、目標を決めてマーケティングコミュニケーションを考える必要がある。
田端氏は、「広告メディアとしてのLINEの特徴は“無視されにくい”こと。友人に送ったLINEスタンプを無視することは友人を無視することになる。以前の広告は企業が消費者に絵本を読み聞かせるもの。今後の広告はLINEのように会話の中に生まれる」と話している。
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明治学院大学 経済学部准教授