自動車業界のメガトレンド――“MADE”を前提とした不確実性マネジメント視点(2/3 ページ)

» 2017年04月17日 07時17分 公開
[貝瀬斉ITmedia]
Roland Berger

Digitalized (デジタル化)

 自動運転と並ぶMobilityの要件がデジタル化である。今後は各車両の状態や履歴を的確に把握できるようになり、車両の利用者や保有者(事業者を含めて)に個別最適されたクラウドベースのサービスが広がる。

 既に保険では実際の走行履歴や運転のクセに応じた保険料の柔軟な設定が行なわれているが、他にも部品メーカーが遠隔診断に基づいて自社の独自整備ネットワークに入庫を促進するサービスで追加の事業機会を狙う動きもある。

 また、営業車や商用車には元々フリートマネジメントの一環で様々なテレマティクスサービスが提供されているが、シェアードサービスになると生活者が利用する車両でも同様の事業環境が整うことになり、新たな収益機会が生まれることになる。

 サービス開発の基盤として人工知能の活用も進む。 ただし、人工知能への投資は大きく技術者の争奪戦も激しいため、全てを自社で賄う企業は限られる。そのため、多くの企業は提携をうまく活用すること、つまり自社でやることと外部から取り込むことを明確に定義して、そのすみ分けで合致するパートナーと先んじて組むことが重要となる。

Electrified (電動化)

 Mobilityで多様な移動ニーズを満たすためには、前提として車両のコンポーネントが小型・軽量で静かなことも大切となるため、パワートレインの電動化は今後確実に加速していく。その中では、環境規制順守への圧力、政府や自治体の後押し、充電設備の進化と普及、電池技術の進化、OEMの戦略シフトといった各要素がかみ合うことが条件となる。

 環境規制順守への圧力では、中国でも二酸化炭素排出量が 2025年に 95グラム/キロメートルという議論もあり、環境規制対応は先進国固有の課題ではなくなってきている。

 またOEMも急速にEVへと戦略をシフトしているが、VWのディーゼル問題もひとつのきっかけではあったものの、そもそもディーゼルは規制対応に必要な後処理装置によりコストアップになること、そして上述した環境規制強化への対応のため電動依存を高める必要があったことも背景にある。

 特にドイツ勢は一丸となってグローバルでのトレンドを作り、イニシアチブを握る動きに長けており、それは電動化においても、VW/AudiだけでなくBMWや Daimlerも矢継ぎ早に戦略シフトを行なってきたところからも見て取れる。

不確実性を乗りこなす

 ここまで“MADE”というコンセプトに基づき、自動車産業のメガトレンドを紹介してきた。これからの5年で起こる変化が 「ディスラプティブ」であることをご理解頂けたのではないだろうか。単なる技術革新のみならず、それが人々の車の使い方や持ち方も変えることになり、ひいては自動車産業のプレイヤー構造にも大きな影響を及ぼす。

 しかし、このような変化は多くの変数が複雑に絡み合っているため、顕在化タイミングを的確に予測することは困難である。一方で、ひとたび顕在化すれば事業に与えるインパクトも大きいため、事前に備えを持っておくことも必要となる。 不確実だから予測できないので変化が起きたら受動的に対処するのではなく、不確実だからこそ粗くても想定を置いて変化の予兆が見えたら能動的に仕掛ける、という考え方である。

 このような状況の中で有効となるのが、事業ロードマップである。これは、自社の事業の根幹にあるコンセプトに基づいて10〜20年先までの間に、いつ、どんな事業を、どのような顧客に、どのような価格で提供していくのか、自社の意志としてまとめたものである。

 規模を問わずドイツ企業の多くは、事業ロードマップを活用して長期の事業方針の PDCAサイクルを回している。 事業ロードマップを基軸にした不確実性マネジメントには、事業ロードマップを(1)生み出す、(2)使いこなす、(3)進化させる、(4)根付かせる、という4つ要素を一連の流れとして機能させることが鍵となる。(図C)

(1)生み出す

 そもそも事業ロードマップの前提は、「現時点で最も確からしいと思える仮説に基づく自社の意志」である。最も確からしいことを担保するためには、将来を多面的に見立てることが必要となる。そのためには、B2Bビジネスを行っている企業も含めて、生活者の暮らしぶりや価値観における変化を自ら描いて、そこに自社なり自社のクライアント企業なりがどのような貢献ができるのかを起点に考えることも有効である。

 B2B企業には 「生活者に最終製品を届ける自社のクライアント企業(B2C企業)の方が生活者に近いので、自社が直接生活者の変化を予測する必要はない」 という声もある。

 しかし、それではクライアント企業と同じ目線での議論にならない。同じ対象について違う立場からの見立てを突き合わせることで、その違いから議論が広がり、双方の理解が深まり、見立ての精度が高まっていく。

 生活者だけでなく競合についても、変化を想定することが不可欠である。 今の競合が個別の製品やサービスではなく戦略として、どのような方向に舵を切っていくのか、何を生業としていくのか、どのような事業ポートフォリオに変わっていくのかを読み解き、その中で自社の勝ち筋を描けているのかを客観的に検証することが重要である。

 競合の戦略を読み解くのは難しいように思われるかもしれないが、例えば上場企業であれば決算説明会資料や経営者のセミナー登壇資料、過去10年間のセグメント構成比の変化やM&A実績という入手可能な情報を基に、ある程度はストーリーとして組み上げることができる。

 また、事業ロードマップでは企業としての継続性の観点から、現状の事業ポートフォリオとの連続性も担保しなくてはならない。 新たな事業を組み込んでいく際、既存事業を売却して一気にポートフォリオの転換を図るのか、または漸減させながら新たな事業を徐々に増やしていくのか、いずれにせよ既存事業の扱い方も明確にしていくことは、手触り感を担保する上で欠かせない。事業ロードマップはこのような多面的な視点から客観的に検証することが重要である。

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