シナリオプランニングを実践するためのメンバーの選定や事業へのつなぎの場面など課題にいかに対応するのか。
前回の記事では、企業でシナリオプランニングをどのように活用していくのかを紹介しました。今回は筆者の経験も踏まえ、企業でシナリオプランニングを使ったワークショップやプロジェクトを進めていく場合のプロセスと注意点を見ていきましょう。
シナリオプランニングの手法を使い、複数のシナリオを作っていくためのプロセスをまとめると次のようなステップで表せます(図1)。
市販されている書籍やインターネット上で公開されているガイドブックなどで紹介されているプロセスを見ても、各ステップの粒度や表現の違いはあるものの、おおむね、この図のように進みます。
実際、筆者がオックスフォード大学の講座を受けた時も、このような流れでシナリオを作成しました。そのため、当初はこのプロセスだけを念頭において、単発のワークショップや長期のプロジェクトを進めていました。しかし、さまざまな場面、特に長期のプロジェクトでこのプロセスだけに従って進めていくにつれ、途中で難航するプロジェクトが増えてきました。個々により状況は異なりますが、共通して起きる事象は主に次の3つに整理できます。
1、プロジェクトメンバーの選定場面で難航する
2、シナリオの完成度の基準を決める場面で難航する
3、作ったシナリオから事業へのつなぎの場面で難航する
1点目は、シナリオプランニングを使ったプロジェクトのメンバーとして誰を選ぶのかという場面です。組織の未来を考える大事なプロジェクトということもあり、組織の未来において重要な役割を果たす人を選ぶという大まかなルールは持っていました。また、なるべく多様なメンバーを選ぶというのも意識していましたが、当初はこれ以上の基準らしい基準はありませんでした。そのため、どのようなメンバーを選べばよいか分からず苦労することがありました。
しかし、メンバー選定に関する本当の問題はプロジェクトが進んだ段階で明るみに出ます。明確な基準がない状態では、役職だけだったり、たまたまタイミングが合ったメンバーが選ばれてしまったりすることがありました。明確な意図や基準があったわけではないため、プロジェクトの中盤から後半にかけての最も難易度が高い場面になって「なんで、こんなことをやらなきゃいけないんだ」「ただでさえ目の前の業務が忙しいのに、10年後のことなんて考える意味が分からない」というような不満が噴出し、プロジェクトの意義を理解してもらうのに苦労するという経験をしました。
2点目はシナリオ完成間近の場面です。図1で紹介したプロセスを進めて、いざ複数のシナリオが完成しそうだとなった際、何を持ってよいシナリオとするのかで意見が分かれました。未来の可能性を具体的に描いた詳細なものにまで作り込んだ方がよいのか、あるいはプロジェクトにかけられる時間や費用を踏まえて、ある程度イメージできるものができればよしとするのか。それらを決める明確な基準がなく、各場面でファシリテーターである自分が判断していったのですが、プロジェクトメンバーの中には、いくらコンサルタントが言うこととはいえ、属人的な判断基準で完成度が決まっていくことに不満を持つ人もいました。
そのようなプロセスを経てシナリオが完成したとしても、気を抜くことはできません。シナリオが完成すると、次は3点目の難航する場面に遭遇します。つまり、未来についての複数のシナリオは完成したものの、そこから自分たちの事業や企業内の取り組みにどのようにつなげていくのかが分かりにくいのです。結果として、シナリオが完成したことには満足したものの、その後はあまりそのシナリオに触れないまま、日常の業務が進められていくようなこともありました。
あえて筆者の過去の失敗談を書きましたが、このような事例は枚挙にいとまがありません。最近になって「以前にシナリオプランニングのプロジェクトをやったが、その成果をまったく生かせていない。どうしたらよいか?」という問い合わせが増えてきました。また、弊社の公開セミナー参加者の中には、かつてシナリオプランニングに取り組んだものの、思ったような成果をあげられなかったという経験を持つ人が毎回一定数います。つまり、ここで紹介したことは、弊社に限らず、シナリオプランニングに取り組む多くの人が直面する共通の課題なのです。
そこで単にシナリオプランニングを使って複数の未来というアウトプットを作るだけではなく、完成したシナリオをインプットとして事業や組織の変革に生かしていくためには何をすればよいのかを考えました。その結果、現在で採用しているのが図2に示すシナリオプランニング・プロジェクトマネジメントモデルです。
このモデルの元となっているのは筆者が翻訳した『90日変革モデル』(翔泳社)という書籍で紹介されているフレームワークをベースにしています。同書では成功した組織変革に共通していたプロセスとして
という5つのステップを定義しています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授